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エイザの奇妙な冒険


2006-02-09 運命と奴隷と炭酸と。

_ 「我々はみな運命の奴隷」

 今日は組合の一斉集会。

 実は組合幹部でもあるO女史が麦とろご飯をかき混ぜながら、話しかける。

「この後、一斉集会ですから。全員参加ですから」

豪快にどんぶり飯をかきこみつつ、続ける。

「だから今日、私はご飯を10分で食べなきゃならない『運命』なんだな、これが」

 突然ではあるが私は「運命」という言葉が嫌いである。「運命」という言葉を聞くと、必ず言い返してしまう。

「『運命』なんて、自分で切り開くものじゃないですか」

ああ、なんて手垢のついた、それでいて美しい言葉であろうか。

そこでO女史の隣で食事中のヒロ課長が深くうなずく。

キレイに整えられた7・3分け、銀色のメタルフレーム、微笑みを絶やさない、育ちのよさそうなヒロ課長。

彼はO女史の新しい上司である。週に1度、本社からO女史を訪ねてわざわざ工場にやってくるのである。

普通、逆じゃないか?上司のところに部下が行くものではないか?というツッコミは通用しない。だってO女史なんだもん。

「そうだね。運命は切り開くものだね。そのためには『未来』のイメージが大事だよね」

そこでそんないい言葉を言われると逆にリアクションに困ってしまう。思わず口ごもる。この部署に来てこんなまともなリアクションされるのは初めてである。

 しかし、その隙を見逃すO女史ではない。いつものネコじみた笑顔を浮かべて、こちらを見る。

「エイザに『未来』なんてあるの?」

かいしんのいちげき。エイザはMPに200ポイントのダメージをうけた。

思わず、ヒロ課長に泣きを入れてしまう。

「・・・いつもこんな風にO女史に虐められているんです・・・」

微笑みが少し凍りついたヒロ課長が聞き返してくる。

「いつも、なんですか?」

「いつもなんです」

「うん、いつも虐めてます」

私の声とO女史の声が重なる。ふと見ると満面の笑みを浮かべたO女史がガッツポーズ中。

ガッツポーズはともかく、とろろ付きの箸を振り回すのはいかがなものか、と思われるが。

 ともかく、少しフォローした方がいいかもしれない。このままではO女史が「弱いものいじめ好きなサディスト」だと思われてしまう。

・・・否定はできないかもしれないような気がするが・・・。

「まぁ、ネコが動くものを追うようなもので、本能だと思いますがね」

自分で言っていてフォローになっていない気もするが、続けてみる。

「たぶん悪気は、ないんじゃないか、と」

と、それをぶち壊しにするように、O女史が続ける。

「ライオンがネズミをいたぶっているようなものですから。殺すつもりはありませんから」

完全に凍りついた微笑みで、ヒロ課長がつぶやく。

「・・・悪気はない、と」

なお一層のダメージを受けて、私もつぶやく。

「・・・私はネズミっスか」

 数瞬の沈黙の後、いつもの微笑みを取り戻したヒロ課長が苦笑いしつつ、話しかけてくる。

「なんか、聞いていると、O女史は『アマゾネス』みたいだよね」

「は?」

・・・アマゾネス。脳裏に毛皮のビキニ着て、腰に蛮刀、背中に弓矢を背負ったO女史の姿が浮かんでくる。なお、腹筋が6つに割れているのは当然である。

・・・似合いそうでコワイ・・・。

そんな私の想像をしってか知らずか、ヒロ課長が続ける。

「うん、女性がエラくて、男はみんな奴隷みたいな」

ど、奴隷?!

 そこで、今まで会話に参加していなかった、姐さんがボソリとつぶやく。

「・・・もし、そうだったらどんなにいいか・・・」

再度空気が凍りつく。

 確かに姐さんはサラシ巻いて、留袖の右肩を脱いで、サイコロ振っていたら似合いそうな人ですが、「奴隷」はヤバイのでは?

 しかし、姐さんはそんな空気に気付かずに続けたりする。

「でも、使えないのがいっぱいいるから・・・」

「ね、姐さん?」

「あ、エイザは違うからね。使える方だから」

ここで氷点下の空気に気付いたらしい。慌ててフォローを始める姐さん。

しかし、これはフォローになるのであろうか、疑問である。

そして、そんなタイミングを見逃すO女史ではないのである。

「エイザは使える『奴隷』だと、姐さんはおっしゃってます」

 思わず、哲学的な疑問に捕らわれる私。天井(の向こうの青空)を仰ぎつつ、つぶやくのである。

「・・・使える『奴隷』と使えない『自由人』、どっちが幸せなのかなぁ・・・」

 そのとき、くすくす笑いながら傍観していたチョー女史がにっこり笑って、まとめに入る。

「まぁ、エイザちゃんはいつでもどこでも誰にでも虐められる『運命』なのよ。がんばって切り開いてね」

 そして、ヒロ課長がつぶやいた。

「悪気は・・・ない・・・」

 それがなにを指しているのか、永遠の謎である。

_ 蛇足その1

組合一斉集会後、事務所に戻る。

ロックさんに用事があったのだ。

ロックさんは喫煙所の床に座り込み、テーブルに置かれたペットボトルを見つめていた。

「ロックさん、なにしてるんですか」

ペットボトルから視線をそらさず答えるロックさん。

「なぁ、炭酸の泡が上がっていくのって、癒されるよね」

・・・かなりヤバイ気がするのは私だけだろうか。

本日のツッコミ(全5件) [ツッコミを入れる]
_ クマ三郎 (2006-02-10 00:16)

キミの「運命」はO女史の掌の中…。

_ ぷろふぇっさーK (2006-02-12 07:36)

早く出世して社長にでもなっちゃいなさい。一番上に行けばO女史からはなれられ…… あっ,組合幹部だっけ それもちょっと面白いかも。 

_ エイザ (2006-02-13 23:58)

クマ三郎様>だから「運命」は自分で切り開くものだって<br>ぷろふぇっさーK様>万が一一番上に行っても弄られそうな気がします…。なぜなら、O女史だから!

_ クマ三郎 (2006-02-15 17:04)

エイザ君は世界の果てまで行ってもO女史の5本指しか見られないと思います。

_ エイザ (2006-02-21 23:46)

私は岩から生まれたサルか…。<br>というより、O女史が「お釈迦様」な世界ってとっても怖いのですが…。<br>絶対、世界、オモチャにされますから。<br>ある意味、地獄…


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