「今日のお昼はイカマリですから!」
事務所に戻ってくるなり、O女史がガッツポーズ。
体育と給食だけが楽しみという小学生みたいな態度に、周りの反応は冷たい。
「・・・あ、そ」
ロックさんはPCから顔を挙げない。
「それは良かったね。」
マグロさんは書類から視線を挙げる。まるで小学生をあやすような口調で答え、すぐに書類に視線を戻す。
それが不満だったのか、O女史は2人に食ってかかる。
「つれないなぁ。なに〜、その態度ぉ」
そのまま人差し指を振りながら続ける。
「今日はイカマリですよ、イカマリ。イカマリって言ったらイカマリですから」
全然意味がない。というよりワンセンテンスに「イカマリ」が4回も出てくるのはいかがなものだろうか。とっても頭が悪そうだ。
「なんたって、イカマリですから。ねぇ、エイザ」
いきなりこちらに飛び火してくる。何故、離れた席に座っている私に話を振るのだ、この人は。
「そうですか、今日はイカマリなんですか。」
「エイザもノリがわる〜い。イカマリですよ、今日は!」
O女史、さっきから「イカマリ」としか言っていないような気がする。あなたは「イカマリ」と啼くUMAかなんかですか。
・・・そうかもしれない。「食肉目ヒト科O女史。イカマリを好んで食べる。鳴き声は『イカマリ!』『残念!』『ですから』『勝った!』。舌に神経毒をもち、エモノを麻痺させ、いたぶる習性がある」:民明書房『日本のUMA〜知られざる脅威の未確認動物たち〜神奈川編』より抜粋・・・こんな感じだろうか。
さて。ここで、説明しなければなるまい。「イカマリ」。正式名称「イカのマリネ」。イカの甲を輪切りにし、薄い衣をつけて揚げたものに細く櫛切りにしたたまねぎのマリネを和えたもの。工場の食堂の人気メニューである。
しかし、ここまで理性を失うほど喜ぶべきことであろうか。たしかにおいしいし、私も好物ではあるが・・・。
「なに、それは本当か?Oちゃん!」
突然、鋭い声が割り込んでくる。振り向くとライトグリーンの作業服に身を包んだ坊主頭の大男が驚きの表情を浮かべて立っている。研究所のエンヤーさんだ。
「間違いないっスよ、エンヤーさん!」
O女史の声に満面の笑顔を浮かべ、エンヤーさんがうなずく。
「おぉ、それはすばらしい!!生きる気力がわいて来るよね」
・・・そんなことで気力がわいて来るのか!?
「エイザ、わかってな〜い」
「まだまだ甘いな。エイザくん。」
O女史とエンヤーさんが間髪入れずに言い返す。
「そもそもだ。お昼においてはイカマリの前にイカマリ無く、イカマリの後にイカマリ無し。まさに『キング・オブ・お昼』なのだよ!」
腕組みをして、何度もうなずきながらエンヤーさんが続ける。
「イカだけではイカマリにならず、マリネだけでもイカマリたりえない!そう、イカの弾力とマリネのシャキシャキ感。フライの油とマリネのお酢が融合し、絶妙のハーモニーを奏でる。それがイカマリなのだよ!」
・・・あなたはどこの食通ですか。ここは東○新聞社でも×皇料理会でもありません。そもそも工場の食堂メニューを何故、そんな夢見るような瞳で語れるのだろうか。
だが、そんな心の中のツッコミに気がつく様子も無く、エンヤーさんは続ける。
「そして、イカマリの真の魅力はそのえんぺらにある!円錐状になった部分の内側についた衣が油を吸い込み、うま味が凝縮しているのだ!その味は円錐の中で凝縮される!また、円錐は円柱よりも応力破壊に強いから、より弾力のある歯ごたえが楽しめるのだよ」
「いや〜、そこまではど〜かなぁ」
O女史も困っているようである。・・・ダメだ、こりゃ。
気がつくと、ロックさんもマグロさんもいなくなっている。うう、逃げられた。仕方ないのでエンヤーさんに話しかけてみる。
「あの〜、エンヤーさん?」
「なんだい、エイザくん」
「イカマリに対する熱い思いは理解したつもりですが・・・そこまで力入れなくとも・・・」
「なにを言っているんだ。そんなことでは『イカマリ愛好会』のメンバーとはいえないぞ!」
・・・いつの間にそんな組織ができたんだ?そしていつ私がメンバーになったんだ?
「我々愛好会メンバーの悲願、それはイカマリコーナーの常設化!1年365日いつでもイカマリが食べられるようにすることだ!倒れていった先人たちの努力に報いるためにも、我々に敗北は許されない!前に進み続ける必要があるのだ!!」
どこの軍人だ、このヒトは・・・。
「・・・イカマリ、毎日はちょっと・・・」
さすがのO女史も、これにはついていけないらしくボソッとつぶやく。
しかし、エンヤーさんは真顔で続ける。
「そのためには給食業者に対し、絶えず働きかける必要がある。・・・ところで総務で契約を担当しているのは誰?」
「エイザ!」
O女史が間髪入れずに答える。同時にエンヤーさんのアツいまなざしが私に注がれる。
「それはすばらしい!我が愛好会の事務局次長が契約担当とは!これぞ天の配剤といわずしてなんと言おうか!」
エンヤーさんが私の肩に手を置いて、言った。
「頼むぞ!事務局次長!20年来の悲願の達成はキミの双肩にかかっている!」
・・・いつの間に事務局ができたのか、いつ私が事務局次長になったのか、そもそもその「事務局次長」という中途半端な役職はなんなのか、20年来の悲願とはなんなのか、倒れていった先人たちって誰のことなのか・・・ツッコミどころがありすぎて何も言えないエイザであった。
そして、昼休みのチャイムが鳴る。今日のお昼はイカマリだ♪
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ええと、「エンヤーさん」のキャラデザインは「食通」タイガードラゴン+江田島平八÷2でFA?
無性に「イカマリ」を食べてみたくなったのは、おいらだけ??
その「イカマリ」にも,あの魅惑の白い粉がかかっているのでせうか?
素晴らしい!素晴らし過ぎるよ、エンヤーさん!師匠と呼ばせてください。しかし、一つ疑問が。何故、イカマリを自らの手で商品化しようとしないのでしょうか?
皆様、コメントありがとうございます。<br>あいあん様>「タイガードラゴン」を思い出すのに30秒程かかってしまいました。そして「しいたけヨーグルト」を同時に思い出してしまいました。謝罪と賠償を(以下略)<br>ともりん様>あの〜、「イカマリ」ってそんなにメジャーなメニューなんでしょうか。私は工場で始めて食べました。<br>ぷろふぇっさーK様>白い粉はマリネ部分にちょっと入っているかも。でも、うちの社員はみんな白い粉、大好き。<br>クマ三郎様>「イカマリ」商品化ってどんな形になるのだろう?<br><br>今回はエンヤーさん、大人気だ。でも「イカマリ」が絡まないときはまともで厳しいオッサンなんだよね。