_ 昼食後。事務所の席に戻ると青くなったマリさんがすっ飛んできた。
マリさんは小動物を思わせるかわいらしい「お嬢さん」である。
性格は、めちゃくちゃ「せっかちさん」。
「エイザさんっすいませんっ大変ですっ」
大変なのか、すいませんなのか、どっちなのだ。
いいから落ち着いてください。
「えーと、御自宅からー、お電話がー、ありましたー。」
そこまでゆっくり話さなくてもいいです。
しかし、自宅から電話とは穏やかでない。
親父が高血圧でひっくり返ったのか?
お袋が低血圧で貧血でもおこしたのか?
それとも交通事故か?
ひょっとしてベッドの下に隠してある・・・それはないな。
とにかく、心配になり自宅に電話を入れてみる。
3コールで電話がつながり、余所行きモードのお袋が出てくる。
「エイザです。なにかありました?」
「あ、エイザ。今日ちゃんと会社行ってる?」
・・・30過ぎた息子を何だと思っているんだ。登校拒否児童じゃないんだぞ。
しかも同居しているんだぞ。会社サボったらすぐわかるじゃないか。
「実はね。今日、エイザが車で21歳の女性を撥ねたって電話があったから」
・・・はぁ?今日は運転なんぞしてないぞ。
「で、治療費でお金を振り込めって言われたんで・・・」
それはひょっとして少し前に流行った「振り込め詐欺」ってやつでは。
「それで?もう振り込んじゃったとか?」
おそるおそる尋ねてみるとお袋がくすくす笑いながら
「払うわけないじゃん。まず時間が通勤時間と合わないしね」
まず、一安心。そのままお袋が続ける。
「それにね、エイザの名前の読みが間違ってた」
種明かしをすると、私の名前は漢字2文字を音訓読みするものなのだ。俗に言う「重箱読み」というやつである。
話を聞くと名前を全部訓読みしてきたらしい。
「で、どこで事故したのか、相手のケガの状態とか事細かに質問したら、しどろもどろになって切れちゃった」
相変わらず攻勢にでると強い人である。
「それにしても今でもあるのね、「振り込め詐欺」って。」
勝者の余裕を見せつけながらお袋は感心している。
・・・まぁ、相手が間抜けだったから良かったんだけどね。
かくしてエイザ家を襲った卑劣な陰謀は潰えたのだった。
やれやれ。
年の瀬は世知辛くていけないねぇ。
電話終了後、マリさんにお礼を言いに行く。
「取り次ぎ、ありがとう。たいしたことじゃなかったから、安心してください」
「なにかー、あったんですかー?」
余裕のあるときは意識してゆっくり話すマリさん。でもゆっくりすぎ。
まるで幼稚園児に「おかたづけ」を教えているような口調である。
「んー、今日、うちに振り込め詐欺があったらしい」
マリさんが目をパチクリさせる。
「どんなことっ言われたんですかっ」
動揺すると急に口調が早くなる。
「いや、大丈夫だったから。何でも私が21歳女性をクルマで撥ねてにケガをさせたとかなんとか」
「へー、そんなことも、あるんですねー」
安心したのか、とたんにスローペースになるマリさん。
その口調はかえって怖いぞ。幼稚園児泣くぞ。
そこで、マリさんの隣に座っているヨッシー(今年の新人)が振り向いた。
「え、エイザさん、女性に暴行したんですか?」
・・・真顔で訊くな、真顔で。
「なんかー、クルマでー、撥ねたとかー」
マリさんも誤解されるようなこと言わないでください。
というか、説明は早口でお願いします。
「エイザさん、マズイですよ、それは」
ヨッシー、誤解したまま話を進めるな!
「治療費はー、振り込んでー、ないらしいですよー」
女性に暴行はしていないが、ここにいるタワケモノには暴行したい気持ちでいっぱいのエイザであった。
私はあまりTVドラマを見ない人である。とくに恋愛モノは苦手。
しかし、シラガさんはシーズンに何本か、TVドラマを視聴している。
その結果、私もそのドラマを流し見することになるのである。
で、シラガさんが今シーズン見ているのが、 月9の「イノセント・ラブ」
素直なヒロインが様々な不幸に見舞われながらも、けなげに生きていく様を描いたありがちな感動の物語。
そして、物語もラスト2話。物語は佳境に入っていくのである。
画面の中では「殉也」(男性主人公)が、彼に片思いする「教会女」に 物置に監禁 されている。
画面を眺めて、推測してみる。
「・・・物置にあるモップで、扉を破って脱出かな?で、その時に 間違って『教会女』を殴り殺し てしまい、警察に追われる身に・・・」
だが、『教会女』のモノローグとともに物置の鍵は開けられ、「殉也」(男性主人公)はヒロインを追って長野に向かう。
・・・そんなんでいいのか、「殉也」(男性主人公)?お前、主人公だぞ!英語で言えば「Hero」だぞ!
画面の中では車椅子に乗った「殉也」(男主人公)の「元カノ」の前に「教会女」が登場。 冷たい能面のような無表情 で「元カノ」の隣に座る。
画面を眺めて、推測してみる。
「そりゃ、『教会女』が『元カノ』の 車椅子を坂の上から突き落とす のでは・・・。で『元カノ』は哀れにも抵抗も出来ず、 頚椎が折れて宙を掻き毟りながら絶命する のでは・・・」
だが、「教会女」は辛辣なイヤミを言うだけで去っていく。
・・・そんなんでいいのか「教会女」?あれだけ嫉妬に狂った後なのに、口だけで満足するなよ!
画面の中ではヒロインと「殉也」(男性主人公)の前に「妹萌えのお兄ちゃん」(親殺しで逮捕・収監歴あり)が現れて、二人をにらみつけている。その手には光るナイフが!
画面を眺めて、推測してみる。
「そりゃ、 『妹萌え』が「殉也」(男性主人公)をメッタ刺し にして、そのショックで記憶を取り戻した ヒロインが『妹萌え』を刺し殺し てバッドエンド。ヒロインは 血まみれになって夜の闇の中で立ち竦んで・・・ 」
だが、「妹萌え」は「殉也」(男性主人公)を襲うが、それはヒロインの記憶を取り戻すための演技。目的を果たした「妹萌え」は満足して自殺を図るも「殉也」(男性主人公)に諭され、いずこかへと去っていく。
・・・そんなんでいいのか、「妹萌え」?あれだけ大暴れして、結果それかよ!
番組終了後、シラガさんが訊いてくる。
「ねぇ、エイザの予想って ぜんぜん当たらない じゃん。それになんでそんなに 悲観的 で バイオレンス なの?」
それは純真な幼年期に 「ザンボッ○3」の洗礼 を受け、多感な少年期に 「イデ○ン」「ダンバ○ン」「Zガン○ム」に熱中 し、青年になってからも 「Vガン○ム」を全部見てしまったり したからだろう。
「じゃあ、最終回はどうなるの?」
そんなのは決まっている。 精神崩壊を起こしたヒロインを車椅子に乗せ、「妹萌えのお兄ちゃん」が長野に帰っていく のである。私の 「脳内ト○ノ御大」 がそうおっしゃっているのである。
「だから、なんでそんなに 破滅的 なのよ!」
だから、 「脳内ト○ノ御大」がそうおっしゃっているからしかたがない のである。
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_ けんけん [というか、暴行するのに車で撥ねるんかい^^;]
_ クマ三郎 [車で撥ねて動けなくなったところを…って何を書いているんだ私は。]