今日はともりん氏の呼びかけで「新番組について語る会」に参加。
出席は、ぱ氏、クマ三郎氏、T上氏。
ぱ氏の希望で焼肉屋に行く。
しかし、新番組の話ではなく馬鹿話が続くのはいつものことである。
その中で、サボっているブログの更新について聞かれるのであるが、
みんななぜか「O女史の愉快な生活」とか「O女史の華麗な冒険」とか言うのである。
…このブログのタイトルは「エイザの奇妙な冒険」だったと思うのだが。
そこでみんなに訊いてみた。
「そんなにO女史が好きかぁぁぁぁ!!」<「ギンガナム御大将」風に読んでください。
それに対する答えは以下の通り。
「他に誰がいるんだ?」
「え?違ったの?」
「なじって下さい、踏んでください、苛めてください!!」
…発言者の名誉のため、あえて誰の発言かは伏せる。
しかも某ぱ氏が笑顔で続けたりする。
「素直になれよ。君もO女史に苛められるのが、うれしいんだろ。この『ツンデレ』が!」
私にはそういう属性はないのである。
ほんとに毎日弄られて大変なのだ。
出来ることなら、誰かに代わって欲しいのである。
今日は、下書きなしで書いているせいか、ギンガナム御大将ネタを出すと、妙に「…である」という文体になってしまう。
困ったものである!!
…ギンガナム御大将を知らない人はググってください。
笑えます。
今日は組合の一斉集会。
実は組合幹部でもあるO女史が麦とろご飯をかき混ぜながら、話しかける。
「この後、一斉集会ですから。全員参加ですから」
豪快にどんぶり飯をかきこみつつ、続ける。
「だから今日、私はご飯を10分で食べなきゃならない『運命』なんだな、これが」
突然ではあるが私は「運命」という言葉が嫌いである。「運命」という言葉を聞くと、必ず言い返してしまう。
「『運命』なんて、自分で切り開くものじゃないですか」
ああ、なんて手垢のついた、それでいて美しい言葉であろうか。
そこでO女史の隣で食事中のヒロ課長が深くうなずく。
キレイに整えられた7・3分け、銀色のメタルフレーム、微笑みを絶やさない、育ちのよさそうなヒロ課長。
彼はO女史の新しい上司である。週に1度、本社からO女史を訪ねてわざわざ工場にやってくるのである。
普通、逆じゃないか?上司のところに部下が行くものではないか?というツッコミは通用しない。だってO女史なんだもん。
「そうだね。運命は切り開くものだね。そのためには『未来』のイメージが大事だよね」
そこでそんないい言葉を言われると逆にリアクションに困ってしまう。思わず口ごもる。この部署に来てこんなまともなリアクションされるのは初めてである。
しかし、その隙を見逃すO女史ではない。いつものネコじみた笑顔を浮かべて、こちらを見る。
「エイザに『未来』なんてあるの?」
かいしんのいちげき。エイザはMPに200ポイントのダメージをうけた。
思わず、ヒロ課長に泣きを入れてしまう。
「・・・いつもこんな風にO女史に虐められているんです・・・」
微笑みが少し凍りついたヒロ課長が聞き返してくる。
「いつも、なんですか?」
「いつもなんです」
「うん、いつも虐めてます」
私の声とO女史の声が重なる。ふと見ると満面の笑みを浮かべたO女史がガッツポーズ中。
ガッツポーズはともかく、とろろ付きの箸を振り回すのはいかがなものか、と思われるが。
ともかく、少しフォローした方がいいかもしれない。このままではO女史が「弱いものいじめ好きなサディスト」だと思われてしまう。
・・・否定はできないかもしれないような気がするが・・・。
「まぁ、ネコが動くものを追うようなもので、本能だと思いますがね」
自分で言っていてフォローになっていない気もするが、続けてみる。
「たぶん悪気は、ないんじゃないか、と」
と、それをぶち壊しにするように、O女史が続ける。
「ライオンがネズミをいたぶっているようなものですから。殺すつもりはありませんから」
完全に凍りついた微笑みで、ヒロ課長がつぶやく。
「・・・悪気はない、と」
なお一層のダメージを受けて、私もつぶやく。
「・・・私はネズミっスか」
数瞬の沈黙の後、いつもの微笑みを取り戻したヒロ課長が苦笑いしつつ、話しかけてくる。
「なんか、聞いていると、O女史は『アマゾネス』みたいだよね」
「は?」
・・・アマゾネス。脳裏に毛皮のビキニ着て、腰に蛮刀、背中に弓矢を背負ったO女史の姿が浮かんでくる。なお、腹筋が6つに割れているのは当然である。
・・・似合いそうでコワイ・・・。
そんな私の想像をしってか知らずか、ヒロ課長が続ける。
「うん、女性がエラくて、男はみんな奴隷みたいな」
ど、奴隷?!
そこで、今まで会話に参加していなかった、姐さんがボソリとつぶやく。
「・・・もし、そうだったらどんなにいいか・・・」
再度空気が凍りつく。
確かに姐さんはサラシ巻いて、留袖の右肩を脱いで、サイコロ振っていたら似合いそうな人ですが、「奴隷」はヤバイのでは?
しかし、姐さんはそんな空気に気付かずに続けたりする。
「でも、使えないのがいっぱいいるから・・・」
「ね、姐さん?」
「あ、エイザは違うからね。使える方だから」
ここで氷点下の空気に気付いたらしい。慌ててフォローを始める姐さん。
しかし、これはフォローになるのであろうか、疑問である。
そして、そんなタイミングを見逃すO女史ではないのである。
「エイザは使える『奴隷』だと、姐さんはおっしゃってます」
思わず、哲学的な疑問に捕らわれる私。天井(の向こうの青空)を仰ぎつつ、つぶやくのである。
「・・・使える『奴隷』と使えない『自由人』、どっちが幸せなのかなぁ・・・」
そのとき、くすくす笑いながら傍観していたチョー女史がにっこり笑って、まとめに入る。
「まぁ、エイザちゃんはいつでもどこでも誰にでも虐められる『運命』なのよ。がんばって切り開いてね」
そして、ヒロ課長がつぶやいた。
「悪気は・・・ない・・・」
それがなにを指しているのか、永遠の謎である。
組合一斉集会後、事務所に戻る。
ロックさんに用事があったのだ。
ロックさんは喫煙所の床に座り込み、テーブルに置かれたペットボトルを見つめていた。
「ロックさん、なにしてるんですか」
ペットボトルから視線をそらさず答えるロックさん。
「なぁ、炭酸の泡が上がっていくのって、癒されるよね」
・・・かなりヤバイ気がするのは私だけだろうか。
何故女性は給湯室が好きなのだろう?
給湯室にお茶を淹れにいくと、数人の女性陣が小声で何か話している。
邪魔をしてはいけない。
小さく黙礼し、設置してあるカップ式の自販機に小銭を投入しようとしたときだった。
ひとりの女性が振り返り、私のズボンのポケットに何かを押し込もうとしてきたのだ。
驚いた私は右ターンでその手から逃れると同時に相手に相対する。バックステップ。2歩の間合いを取る。左肩と左足を心持ち前に出す。右肘を引き、手首を起こして掌底を腰に。迎撃の構えをとり、相手をねめつける。
・・・しかし、何故私は会社の給湯室で戦闘態勢をとっているのであろうか。かなり疑問ではある。
「エイザ、なにしてるの?」
人のポケットに手を突っ込もうとした影が、ニコニコ笑いながら突っ込みをいれてくる。そう、こんなことをするのはO女史しかいない。
「人のポケットに得体の知れないものを突っ込もうとしないでくださいよ」
そもそも、人のポケットに、しかも男性のポケットに手を突っ込もうとする女性なんぞ、めったにいないと思うのだが。
後ろで見ているサトさんとウェバルさん(両方とも女性)がビックリしているじゃないですか。
「えー、得体しれなくないよ〜。失礼だなぁ」
O女史の右手にはうちの工場の製品の小瓶。それをこちらに突き出してくる。
「せっかくだから、エイザにあげようとおもったのにぃ〜」
・・・だまされませんよ、O女史。そんな方法で押し付けようとするのは、何か重大な問題があるからに決まってます。どうせ日付が切れている(賞味期限切れのこと)とかでしょう。
「いや、日付はOKだよ」
・・・あやしい。手にとって確かめたいが、そうしたら最後、押し付けられるに違いない。
そこでウェバルさんが困った顔で教えてくれる。
「・・・日付は大丈夫だけど・・・玄関の展示ケースに入っていたから・・・紫外線焼けしてるらしくて・・・」
「あ、それ言っちゃダメだって!」
充分問題じゃないですか!多少の賞味期限切れなら風味が落ちる程度で済みますが、紫外線焼けだと変質の可能性があるじゃないですか!
「そんなものを押し付けないで下さい!」
「大丈夫!OK!問題ない!」
何故そこでガッツポーズが出るのだ?というより、大丈夫の根拠はどこにあるのだろう。いや、その自信はどこからわいてくるのだろう。
人類の叡智を結集しても、その謎が解けることはないような気がするが。
「それに最悪でもコワれるのはエイザのお腹ですから!」
私にとってはそれが最大の問題であることをO女史が理解する日は何時やってくるのだろうか。
それは西暦が終わって宇宙世紀が黒歴史になり、正暦になっても無理な気がする。
蛇足
事務所に戻り、一服しに喫煙室に入ると、今日もロックさんは喫煙所の床に座り込み、テーブルに置かれたペットボトルを前に、何かをしている。
手にした何かを引っ張って伸ばしているようだ。
「ロックさん、なにしてるんですか」
手にした何かを注意深く引っ張りながら、視線をそらさず答えるロックさん。
「なぁ、ペットボトルのラベルがどこまで伸びるか試してるんだ。癒されるよ〜」
・・・本格的にヤバイ気がするのは私だけだろうか。
最近「ウォームビズ」なる単語が流行っている。
要するに暖房を弱めて、エネルギー消費を抑えましょう、地球環境を守りましょう、という運動である。
実にすばらしい。非の打ちどころがない。そう、言葉だけは常に美しいけど・・・。
うちのような古い事務所にはパッケージエアコンがない。ビル全体空調で20℃に設定すると、当然事務所内は18℃を切る。部屋の中にいても寒いのである。
当然、メンバーは作業服の上にジャンパーを羽織ったり、ラグをひざにかけたり、フリースを作業服の下に着込んだりして寒さをしのいでいるのだ。
私は、といえばワイシャツの上に緋色のコットンシャツを着て、その上に作業服を着ている。首周りや袖口から緋色のコットンシャツがのぞいている形だ。
水色の作業服と色のとり合わせが良くないのは承知の上。寒さをしのげるのなら、些細なことは気にしない。
しかし、気になる人もいる。そう、われらがO女史である。
「エイザ〜、だめだよ〜」
突然、O女史が呼び止める。立ち止まる私にO女史がいつものネコじみた笑顔で笑いかける。
「だめだよ〜、会社で手首切っちゃ」
「なに言ってるんですか、そんなことしませんよ」
「でも、袖口真っ赤じゃん」
・・・確かに袖口は赤い。赤いが・・・しかし・・・。
「袖が赤けりゃ、全部血ですか。大体、襟だって赤いんです」
そんなシャツ1着染まるほど出血したら死んでしまうような気がする。
しかし、O女史は笑顔のまま、さらりとスゴイことを言う。
「頚動脈を切っちゃダメですから!」
それは死にます。すぐ死にます。絶対に死にます。
「そんなもん、会社でも家でも切れるか〜!!」
「切ろうよ〜、頚動脈。スパッと」
あんたは切りたいのか、切られたくないのか、どっちなんだ。
「あ、そうそう、手首切るときは『ヨコ』じゃなくて『タテ』ですから」
わざわざ自分の左手首を右手の人差し指でなぞって見せたりする。
「『タテ』に切ると、止血がしにくいのと、縫いにくいのとで効果抜群ですから」
なにが「効果抜群」なのだろうか。そもそも「手首の切り方教室」なぞ始めないでいただきたい。
とにかく、このままだと「手首の切り方教室」が「実習」にまで進んでしまいそうなので、こっちから突っ込みかえす。
「大体、服装については、あなたにだけは言われたくないです」
O女史は作業服の上から、黒いジャンパーを着ている。これはいい。
下に同じく黒いオーバーズボンを穿き、もはや作業服が露出しているところはない。
まぁ、ここまでもいいとしよう。
問題は、ここから。
なぜかホルスタインの様な模様の入った毛布を肩にかけているのである。
「ゲートウェイからもらってきたのはわかります。事務所内ではそれでもいいです。お願いですから、その格好でお客様に会いに行くのは止めてください。」
ウシ柄の毛布を被った美女が広報担当。うちのイメージが崩壊しかねない。いや、きっと崩壊する。間違いなく崩壊する。
「やっぱりダメ?」
「ダメ」
可愛く首をかしげてみてもダメです。もうお互いそんな年じゃないでしょうが。
「じゃ、その赤シャツ勘弁してあげるから」
「してくれなくてもいいから、ウシ柄でお客様に会いに行くのはやめましょう」
可愛らしくウフッとか笑ってもダメです。子持ちなのは知ってます。
「ケチ」
口を尖らせて拗ねないでください。
ここで、突然O女史、満面の笑顔を浮かべる。ポンッと手を打って続ける。
「じゃ、腰に巻くから。ウシ柄スカートならOK!」
「OKなわきゃないじゃないですか!無地とかチェックならまだしも・・・」
「えー、チェックは良くてウシ柄はダメなの〜?なんで〜?」
・・・かくしてレベルの低いファッション談義は続いていくのである。
今日も終わんな〜いとか悲鳴をあげながら、仕事と格闘しているとO女史がやってきた。
「エイザ、今日、私、先に帰りますから。勝った!」
・・・そうですか、じゃあとっとと帰ってください、とは言えない。笑顔でお疲れ様です、とか返事をする。
するとO女史、手にした紙袋から小さな包みにポストイットを貼りつけ、私の机の上に置く。
「なんですか、これは」
「ん?バレンタインのチョコレート!・・・っていうか、私明日出張でいませんから」
ちょっと、ビックリ。義理とはいえこういう気配りとか一番縁遠い人だと思っていたのだが。
ここは素直にお礼を言っておこう、としたときだった。
いつもの調子でO女史はまたいらんことを言い出し始めた。
「もちろん、『義理』!」
「そりゃそうでしょう」
義理じゃなきゃ困ります。O家家庭崩壊とか泣き叫ぶ子供たち(2度ほど会ったことあり)とか、見たくないです。
「なんといってもダンナとは『らぶらぶ』ですから!!」
「・・・」
はいはい、良かったっスね。せいぜいダンナにゴージャスなチョコレートでもあげて下さい。
とか、独身独り身男性らしく他人の幸せをうらやんでいると、突然O女史がいつものネコ科じみた笑顔を浮かべる。
・・・次に来るのは「アレ」かな?
「あ、そうそう。今から『予言』しても、イイ?」
・・・たぶん、「アレ」だな。
「エイザはこれ以外にチョコレートをもらえない!」
なぜ、そんなにうれしそうなんだ、あなたは!
「・・・やな予言しますね」
一応、声を低くして言ってみる。しかしそんなことをしても次に来る切り返しは「コレ」に違いなく、現在の私には回避不可能である。
「えー、他からもらえるあて、あるの〜」
・・・今はない。でもわからないだろ!どこかにオレのことを見つめているけど、内気なせいで言い出せない娘がいるかもしれないじゃないか!!
・・・って、私はバカか・・・。そんなものは今時少女マンガにもでてこない。きっと1999年頃に絶滅宣言が出てる。現在の進んだクローン技術でも復活は難しいだろう。
「・・・は、ははははは」
現実にはうつろな笑いを浮かべるだけのエイザであった。
なぜか、バレンタインの話は出なかった。平和な一日であった。
今日も終わらないよなぁ、とかため息をついていると突然O女史が悲鳴とともに立ち上がった。
「・・・どうかしましたか?」
なにか、緊急事態だろうか。それともなんか忘れていて問題が発生しそうなのだろうか。
・・・こっちにとばっちりが来たらいやだなぁ。
困ったことにO女史は突然こっちに向き直る。顔満面に食肉目じみた笑顔を浮かべて「うふっ」と笑う。
まるで自分で隠したおもちゃを見つけたような笑顔。
・・・ひょっとして・・・
「そーいえば、エイザ、チョコレートもらえた?」
キター!!(この用法でいいのかな?)
「・・・大きな星がついたり、消えたりしている・・・わぁ、大きい!流星かな?・・・いや、違うな。流星はもっと、バッアーと行くもんな・・・」
思わず、精神崩壊を起こしてみたりする。
「あ、現実逃避してる!やっぱりだ。やっぱりもらえなかったんだ!」
あ〜、精神崩壊起こしている相手に追い討ちかけてはいけない。
「ここ暑苦しいなぁ・・・、ねぇ、出してくださいよ、ねぇ」
本当は心が寒いのだが・・・。ここからだしてくださいよー。
「かわいそうなエイザ・・・でも予言が当たりましたから!」
だから、精神崩壊起こしている相手に追い討ちかけるなよ!!
だが、O女史にそんな「騎士道精神」など期待できるわけも無く、ネコじみた笑顔を満面に広げ、ガッツポーズをとったりする。
「勝った!」
本気で「モテ王」になりたいなぁ〜、とか柄にも無いことを考えたりするエイザであった。
追伸
「エイザさんエイザさん、さっきのやつってなんですか」
平静を取り戻したころ、マリさんがやってくる。
「さっきのやつ?何のこと?」
「さっき『大きな星』とかっ『流星』っとか『暑苦しい』とかっ叫んでたじゃないですかっ」
叫んでましたか?そんなつもりはないんですが。
とりあえず、説明するのも面倒なので当たり障りのない言葉を選ぶことにする。
「・・・秘密・・・」
しかしマリさんはいつもの早口で続けた。
「今日『暑苦しい』なんてっおかしいですよっもし体調悪いならっ病院っいかれた方が・・・』
・・・だから、コレは病院では直らないのだ。
朝の給湯室。カフェインの補充にお茶を淹れに行くとマグロさんが自分のカップを洗っていた。
カップを振って水を切り、ふきんで残った水滴を拭う。
ティーバッグを放り込んで、瞬間湯沸し器から直接お湯を注ぎ込む。
マグロさんがお茶を淹れ終わったところですかさず話しかける。
「あの〜、マグロさん。○○の報告書ですが、未提出なので催促されてますが」
責任者マグロさん、担当者エイザの業務。なのになぜか毎月報告書を書いているのはエイザである。
「う〜ん、エイザちゃん、うまいことやっといて」
満面の笑顔を浮かべて答えてくる。しかしこの人の笑顔はなんか「無責任男」を思い出させるのは何故だろう。
「まぁ、責任はオレが取るからさぁ」
ほら、うさんくさい。こういうときはキチンとソースに基いて反論する必要がある。旨からPDAを引っ張り出してスケジュールを確認する。ほら、やっぱり。
「・・・スケジュール表によれば、報告会の日は御出張じゃありませんでしたか」
「・・・そう言えば、そんな気もするなぁ」
めちゃ、うさんくさい。ここはもう一押しする必要がありそうだ。
「どーやって、責任取るんですか。私が集中攻撃されるのはイヤですよ」
「・・・ロックに説明しとくからさぁ。大丈夫だよ」
「ホントですかぁ」
我ながら疑り深い声を出していたのだろう。マグロさんは少し回りを見回してからこう言った。
「いかんねぇ。まぁ、そこにあるお菓子でも食べて落ち着きなよ。ほら、昨日のバウムクーヘンが残ってるし」
「朝からバウムクーヘンは食べられませんよ。カツサンドや牛丼ならともかく・・・」
ここでなぜか、マグロさんの動きが止まる。からくり人形のように頭を上げてこちらを見返してくる。
「・・・いや普通、朝から牛丼は食べられないだろう?!」
「いや、食べられますよ。カツ丼だってOKです」
「・・・・・・」
何故、ここで黙り込むのだ。朝からカツ丼くらい食べられるだろう、普通。
・・・いや、普通でないのはわかっているが。
「あ、でもカップラーメンは食べられないだろう?」
「食べられますよ。現に今朝、寝坊したので食べてきましたが」
「・・・・・・」
だから何故、そのくらいで驚くのだろう。私だって朝から日本酒とかブランデーはできないと思うが。
「わかった。俺、胃腸だけは弱いんで、朝から牛丼とかカツ丼とかカップラーメンは無理だわ」
「胃腸だけ、弱いってことは、『神経』は太い、ってことですね」
思わず、条件反射で「急所突き」発動。イヤ、これでも手加減したんですよ、「腹が黒い」とか「面の皮厚い」とか言ってないし。
「・・・・・・」
黙り込むマグロ氏。しかしこのくらいで倒せるようなら「微笑みの腹黒男」などとは呼ばれない。
すぐニヤリと笑って反撃してくる。
「あ〜、朝からエイザちゃんにいじめられちゃったなぁ〜。」
わざとらしくため息をひとつ。
「エイザちゃんにいじめられたから、明日会社休むってタヌキ課長に言ってもいい?」
フフン、自分を弱者にしてくるのは下策ですよ。なら、こう返します。
「私としては問題はありません・・・が、O女史に聞かれたら思いっきりバカにされると思いますが」
「・・・・・・」
今度こそ本格的に黙り込んだマグロさん。ここはすかさず追い討ちをかけるべきである。
「『エイザにいじめられて会社休むなんて、よわっ!』とか『私の方がエイザより強いから、マグロさんに勝った!』とか『オーッホッホッ ホ、マグロさんって、軟弱』とか言われてもいいのなら、どうぞ」
思いっきり目が泳いだマグロさん。視線がバウムクーヘンの上で止まる。のろのろと手を伸ばして一切れ口に放り込む。
「・・・オレは朝からバウムクーヘンが食べられるからいいもん」
だが、私は忘れていた。結局報告書は私が「うまいことやっとく」必要があるのは変わらないことに。
そしてパソコンの前で、「うまい報告」をひねり出そうと悪戦苦闘することは変わらないのである。
今日も夕方。疲労が溜まってくる頃。
喫煙所で一服していると、ロックさんがやってきた。今日も業務と怒りで疲労しているのか、妙に顔が赤黒い。
「お疲れ様です、ロックさん」
「おう、疲れてるよ」
そう言って固まった顔を何とか緩めるロックさん。表情筋まで凝っているのだろうか。過分にして「顔凝り」というのは聞いたことがないのだが。
きっとこっちの顔もこわばっているのだろうなぁ、と無理やり笑顔を作って続ける。
「つかれましたねぇ」
「ったく、タヌキの奴」
また、タヌキ課長に振り回されたのであろうか。まぁ日常茶飯事ではあるのだが。
「・・・まぁ、タヌキですから」
「・・・タヌキだからなぁ・・・」
期せずして目が合い、男二人、深いため息をついてみたりする。
「あー、イライラする」
その気持ちは良くわかります。私も昔、タヌキ課長直属で振り回されてましたから。
ここでロックさんが急に唇を歪めて嗤う。「笑う」ではなくて「嗤う」。
あまりロックさんらしくない表情だ、とビックリしていると突然とんでもないことを言い出す。
「こうなったら弱い者イジメでもするか!」
「は?!」
・・・ロックさん、あなたまで私をイジめるつもりなのか!?ヒドイ!信じていたのに!あなただけは私の味方だと思っていたのに!!
しかし、ロックさんは妙に据わった冷たい眼のまま続けた。
「あそこのトラック、横断歩道を踏んで駐車してるし」
「はぁ?」
よく見るとロックさんの眼は私を見ていなかった。背後にある窓ガラスを通して場内道路に駐車している業者さんのトラックを見つめている。
「だからさ、あのトラックに注意しに行くんだ」
「はぁ」
言っていることは至極まとも。これが「弱い者イジメ」とどう関係するのだろう?
ちなみにロックさんは「安衛(安全衛生)屋さん」なので、場内の交通ルールとかも担当しているはずである。 そのロックさんが業者に注意することはなんら問題がない。むしろ業務の一環である。
しかし、ここでロックさんはいつもと声の調子をガラッと変えて、捲くし立て始めた。
「おい、てめえよぉ!誰に断って、この場所に止めてやがるんだ!!」
・・・あの〜、何故巻き舌なんですか。それは駐車違反の注意ではなくて、よそ者のテキ屋に因縁つける地回りの口調です。
しかし、ロックさんはそのままの口調で続ける。
「横断歩道の上に止めちゃいけねぇのは常識じゃねるうぉ!!」
・・・舌をかんだらしい。口元を押さえて悶絶するロックさん。私は再度ため息をついて話しかける。
「・・・ロックさん・・・慣れないことはしない方がいいっスよ・・・」
「・・・だな・・・」
顔をしかめながら同意するロックさん。そしてうがいをするため、いそいそと喫煙所を出て行くのであった。合掌。
「今日のお昼はイカマリですから!」
事務所に戻ってくるなり、O女史がガッツポーズ。
体育と給食だけが楽しみという小学生みたいな態度に、周りの反応は冷たい。
「・・・あ、そ」
ロックさんはPCから顔を挙げない。
「それは良かったね。」
マグロさんは書類から視線を挙げる。まるで小学生をあやすような口調で答え、すぐに書類に視線を戻す。
それが不満だったのか、O女史は2人に食ってかかる。
「つれないなぁ。なに〜、その態度ぉ」
そのまま人差し指を振りながら続ける。
「今日はイカマリですよ、イカマリ。イカマリって言ったらイカマリですから」
全然意味がない。というよりワンセンテンスに「イカマリ」が4回も出てくるのはいかがなものだろうか。とっても頭が悪そうだ。
「なんたって、イカマリですから。ねぇ、エイザ」
いきなりこちらに飛び火してくる。何故、離れた席に座っている私に話を振るのだ、この人は。
「そうですか、今日はイカマリなんですか。」
「エイザもノリがわる〜い。イカマリですよ、今日は!」
O女史、さっきから「イカマリ」としか言っていないような気がする。あなたは「イカマリ」と啼くUMAかなんかですか。
・・・そうかもしれない。「食肉目ヒト科O女史。イカマリを好んで食べる。鳴き声は『イカマリ!』『残念!』『ですから』『勝った!』。舌に神経毒をもち、エモノを麻痺させ、いたぶる習性がある」:民明書房『日本のUMA〜知られざる脅威の未確認動物たち〜神奈川編』より抜粋・・・こんな感じだろうか。
さて。ここで、説明しなければなるまい。「イカマリ」。正式名称「イカのマリネ」。イカの甲を輪切りにし、薄い衣をつけて揚げたものに細く櫛切りにしたたまねぎのマリネを和えたもの。工場の食堂の人気メニューである。
しかし、ここまで理性を失うほど喜ぶべきことであろうか。たしかにおいしいし、私も好物ではあるが・・・。
「なに、それは本当か?Oちゃん!」
突然、鋭い声が割り込んでくる。振り向くとライトグリーンの作業服に身を包んだ坊主頭の大男が驚きの表情を浮かべて立っている。研究所のエンヤーさんだ。
「間違いないっスよ、エンヤーさん!」
O女史の声に満面の笑顔を浮かべ、エンヤーさんがうなずく。
「おぉ、それはすばらしい!!生きる気力がわいて来るよね」
・・・そんなことで気力がわいて来るのか!?
「エイザ、わかってな〜い」
「まだまだ甘いな。エイザくん。」
O女史とエンヤーさんが間髪入れずに言い返す。
「そもそもだ。お昼においてはイカマリの前にイカマリ無く、イカマリの後にイカマリ無し。まさに『キング・オブ・お昼』なのだよ!」
腕組みをして、何度もうなずきながらエンヤーさんが続ける。
「イカだけではイカマリにならず、マリネだけでもイカマリたりえない!そう、イカの弾力とマリネのシャキシャキ感。フライの油とマリネのお酢が融合し、絶妙のハーモニーを奏でる。それがイカマリなのだよ!」
・・・あなたはどこの食通ですか。ここは東○新聞社でも×皇料理会でもありません。そもそも工場の食堂メニューを何故、そんな夢見るような瞳で語れるのだろうか。
だが、そんな心の中のツッコミに気がつく様子も無く、エンヤーさんは続ける。
「そして、イカマリの真の魅力はそのえんぺらにある!円錐状になった部分の内側についた衣が油を吸い込み、うま味が凝縮しているのだ!その味は円錐の中で凝縮される!また、円錐は円柱よりも応力破壊に強いから、より弾力のある歯ごたえが楽しめるのだよ」
「いや〜、そこまではど〜かなぁ」
O女史も困っているようである。・・・ダメだ、こりゃ。
気がつくと、ロックさんもマグロさんもいなくなっている。うう、逃げられた。仕方ないのでエンヤーさんに話しかけてみる。
「あの〜、エンヤーさん?」
「なんだい、エイザくん」
「イカマリに対する熱い思いは理解したつもりですが・・・そこまで力入れなくとも・・・」
「なにを言っているんだ。そんなことでは『イカマリ愛好会』のメンバーとはいえないぞ!」
・・・いつの間にそんな組織ができたんだ?そしていつ私がメンバーになったんだ?
「我々愛好会メンバーの悲願、それはイカマリコーナーの常設化!1年365日いつでもイカマリが食べられるようにすることだ!倒れていった先人たちの努力に報いるためにも、我々に敗北は許されない!前に進み続ける必要があるのだ!!」
どこの軍人だ、このヒトは・・・。
「・・・イカマリ、毎日はちょっと・・・」
さすがのO女史も、これにはついていけないらしくボソッとつぶやく。
しかし、エンヤーさんは真顔で続ける。
「そのためには給食業者に対し、絶えず働きかける必要がある。・・・ところで総務で契約を担当しているのは誰?」
「エイザ!」
O女史が間髪入れずに答える。同時にエンヤーさんのアツいまなざしが私に注がれる。
「それはすばらしい!我が愛好会の事務局次長が契約担当とは!これぞ天の配剤といわずしてなんと言おうか!」
エンヤーさんが私の肩に手を置いて、言った。
「頼むぞ!事務局次長!20年来の悲願の達成はキミの双肩にかかっている!」
・・・いつの間に事務局ができたのか、いつ私が事務局次長になったのか、そもそもその「事務局次長」という中途半端な役職はなんなのか、20年来の悲願とはなんなのか、倒れていった先人たちって誰のことなのか・・・ツッコミどころがありすぎて何も言えないエイザであった。
そして、昼休みのチャイムが鳴る。今日のお昼はイカマリだ♪
日曜の朝は「天晴れ!」とか「喝!」とか飛び交うテレビニュースショーを見ているのだが、赦せないことがある。
_ それは某張さんが言いたい放題言っていることではない。また某村田投手以外は「老醜」としか言い様のないマスターズリーグのコーナーがあることでもない。
昨日は「ゼロックススーパーカップ」にて、2005年度のJリーグステージ覇者のガンバ大阪VS天皇杯王者の浦和レッズというゲームが行われたのである。結果は御存知の通りレッズがガンバに打ち勝ったわけだが、なぜか番組のスポーツコーナーでは一言の言及もないのである。こんなことが赦されていいのだろうか!(反語表現)
私は「神奈川在住」の「レッズ」ファンである。
昨年はリーグ最終戦に泣き、ナビスコ杯でため息をつき、天皇杯で喜んだ。
また、昨日の試合はガンバの宮本こそいなかったものの、レッズとガンバはなかなか良い試合であった。
そしてJリーグの試合一つ一つのレベルアップが日本代表のボトムアップにつながっていくのである。
それを日本代表の些細な話題のみ放送するこの番組は理解していない。まったく、ダメダメである。
朝礼後。ちょっと気になることがあったので、ヨッシーを呼ぶ。
「ヨッシー、ちょっといいか?」
ヨッシーは去年の4月入社の「ルーキー君」。引き締まった長身に禽っぽい顔つき。某国立大のマスター卒業。所謂「ホープ」ってやつである。
しかし・・・性格は「天然」。時々ものすごいボケをかます。
「なんスか?エイザさん?」
システム手帳とボールペンを手にこちらにやってくるヨッシー。基本的に「真面目」な奴である。
「ヨッシー、月間行事予定表だけどさ、3月分、書き込んどけよ・・・タヌキに怒られる前に」
事務所の壁に取り付けられたホワイトボード。総務の月間行事を書き込むのはヨッシーの担当だが、最近どうも忘れがちである。タヌキ課長に余計なことを言われる前に指摘してやるのが先輩の務めってものだろう。
「あー、そうですね。ありがとうございます」
長身を折り曲げるようにして一礼するヨッシー。おもむろに書いてある文字を消し始める。ところが行事だけでなく、土日につけられた赤丸まで一緒に消してしまう。
・・・ああ、もったいない。2月と3月は曜日一緒なのに・・・。
と、そこでヨッシーが振り返って尋ねてくる。
「で、3月1日って何曜日でしたっけ?」
・・・マジですか?
3月1日って明日ですよ。今日が火曜なら明日は水曜日です。
ちなみに手に持っているのはなんですか?普通手帳にはカレンダーが付いていると思いますが。
そもそも2月と3月は曜日は一緒です。違うのは4年に1回、オリンピックイヤーだけです。
・・・頭の中でなにか呪文の様な声が聞こえてくる。
『ゲル・ギム・ガン・ゴー・グフォ!』
ヨッシーの脳を抉り出し、表面の皺の数を数えたくなる衝動に駆られる。落ち着け、私。こいつは「天然」だが「バカ」じゃない!たぶん、きっと・・・。
「2月と一緒だろ」
なるべく動揺を出さないよう、明るく答える。だが返答はその斜め上を行くのである。
「そんなはず、ないっスよ!」
本気で言ってるのか・・・。本気なのか、そうなのか?!一瞬だけ目の前が真っ白になる。落ち着け、私。こいつは「バカ」じゃない。「天然」なんだ。きっとそうだ。たぶんそうだ。うん、間違いない。
「一緒だぞ、基本的には。」
ヨッシーはキョトンとしている。そのまま真剣そのものの顔で聞き返してくる。
「なんで一緒になるんですか?」
・・・こいつ殴っていいですか?斬っていいですか?焼き払っていいですか?灰を多摩川に流していいですか?
だが、誰も答えてくれない。そうだ、落ち着け、私。こいつは根っから「天然」なんだ。真面目でいい奴なんだ。「バカ」かもしれないが「天然もの」なんだ。
しかし、私の声は理性を裏切った。心の方に忠実だっただけかもしれないが。
「2月は28日しかないからだァァァッ!28は7で割り切れるだろうがァァァッ!」
「・・・・・・。あっ!」
数秒の沈黙の後、ヨッシーは手をポンッと打つ。満面の笑顔で答える。
「そうっスね!今、気がつきましたよ!」
そしてそのまま続ける。
「エイザさん、スゴイッスね!」
・・・頭の中でなにか呪文の様な声が聞こえてくる。
『ゴー・ゴー・ゴルディーロ!デストラクション・ファイヤー逆噴射!』
ヨッシーに対して胸の奥に燃え盛る炎を叩きつけたい衝動に駆られる。落ち着け、私。こいつは・・・・・・。こいつは・・・、こいつは・・・。あかん、もうフォロー不能です。
「この、大バカものォォォッ!」
しかし、ヨッシーはそんな私の絶叫など気にせず、ニコニコと2月のカレンダーを見ながら、土日に赤丸をつけていくのであった。
「いやー、確かに2月と3月は曜日、一緒ッスね〜。便利ッスねぇ〜」
・・・もう、いい・・・。
ふと気がつくと、いつの間にか私の後ろにマリさんが立っていた。
「エイザさん、苦労、してますねっ。でもー、私たちはー、いっつもー、苦労してるんですっ!」
隣で深くうなずくウェバルさんを見ながら、大きくそして深く、ため息をつくエイザであった。
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_ ともりん [お疲れ様〜。楽しかったですね。今度はO女史がスペシャルゲストかな??(笑)]