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プログラムは技術だけでは動かない

《書評》★☆☆☆☆

TwitterでOSS主要コミッタを年収400万円で雇おうとした馬鹿会社の話に対する反応で以下のようなことをつぶやいたら50fav.もらえました。

このコーティング以外の能力をうまく他人に説明する本はないかなーと探していて、上記の本を読んでみました。でも、内容は小俣光之の武勇伝だけでした(汗;)

この本は(あまり優秀でない)プログラマから経営者になった人のエッセイで、何か体系的な知識などを要求しなければ、そこそこ面白いかもしれません。体系的な文書を書くのは難しいよね。ある意味テーマは働き方そのものなんだから。でもだからって、プログラマが〜みたいなキャッチーで人に噛み付くようなタイトルつけんなよ。次元が低過ぎる。

要するに、完成させることが優先、ニーズは自分の外にある、という基本中の基本を蕩々と話されても困るよなあ。逆にその部分は大企業に勤めた人間の方がわかるかもよ?

OSSの主要コミッタの話に戻す。いわゆる仕事では否応無く決まるパラメータ….特に力関係みたいなものは決定的で、自分の力では殆ど覆せないでしょう。お客と殴り合う奴は即座にバカって言われるよね。そんなことは教えられ無くったってわかるでしょ。

でもOSS開発、という、ボランティア同士だと決まらないんだよね。Linux開発でもLinusに噛み付くコミッタなんて10人や20人じゃない。そんな世界で、なお協力して「製品」を出して行くのは、ロジック的に正しいと信じる方法で相手を殴りに行くこと=合理性と素直さと実装能力全てが高い次元で備わっていないとできない。これがOSS主要コミッタとなれば、世界中の逢ったこともない人たちを相手に、延々英語とコードで殴り殴られ続ける、ということになるわけだ。これがどんなに過酷なことか。要求はおろか仕様さえ決まっていない、全てができる可能性があるが、全てが手弁当で失敗すれば何の見返りも無いのがOSSの”世界”であり、「俺はXを実装するぜ!」ってのは、漫画チックに言えば少年なのに「海賊王に俺はなる!」って言ってんのと同じなんだぜ。

日本の経営者にはわかんねーんだろうなあ、なにが企業のコアコンピタンスなのか。Google, Amazon, Twitter, Instagram, Facebook etc…これらの成功企業がなぜソフトウェアだけは内製なのか。ちょっと理由を考えてみるといいよ。サンノゼ,シアトルあたりだとエンジニアで年収2000万円は低いほうであって、それじゃ高過ぎるってんでAppleは横浜に研究施設を作ろうとしている訳だけど、さすがに無能力の大卒リーマンと同じ額400万円で雇おうってのは頭がおかしいと言わざるを得ない。

っと….ここのところ良書を立て続けに読んでしまって要求レベルがあがってしまったようだ。エッセイとしてはまあまあ読めるし、受託で食いつなぐことの悩みみたいなのは参考になるかもしれません。ごめんね、そこまで噛み付く内容じゃないんだよ。でもDHCPサーバは、俺でもRFCだけでraw packetの生成からCでフルスクラッチで書いたことあるから武勇伝にはならないと思うよーw恥ずかしいから自慢するのやめよーねーw

オープン・サービス・イノベーション

《書評》★★★★☆

自分的には、製造業の中のソフト屋という、出世街道から外れた曖昧な立場で会社を見た時感じていた強い不安、つまり「あれ?この会社大丈夫なのか?」「自分はシコシコ特許を書きつつも、世間で言うところのイノベーションから遠ざかりつつあるのでは?」という疑問に、一定の筋道を付けてくれた良書です。

すごくおおざっぱに言えば、製品企画を考えて、差別化技術を下請に考えさせて、製品にして出すということは、完全に閉じたサイクルじゃないですか。どの技術を導入し、あるいは捨てて、「一塊の固体」を作って売るというモデルは、いくらリードタイムを短縮して在庫を圧縮しても、過当競争を助長するだけであって、革新にはつながらないと。

単純に言うと、モノは真似される…という歴然とした事実の確認。亀山に巨大工場建てて、大規模投資して、部品の搬入口までステルスにして、機材は内部組み立てして、外部から流入する機材を監視しても製造工程はバレない、みたいな努力をしていたシャープでさえ、今や青色吐息なわけで。エルピーダなんてこの世から消えたじゃないですか。

だから、モノよりコトが大事ということらしい。B2Cの分野だと当然顧客体験という軸は外せないわけで。本書にも事例が多数あがっているAmazonも、最初から今みたいな巨大クラウドプラットホームになりたくてなったわけではないと思う訳です。でもインターネットの本屋として以下のような経過を辿るわけです。

  1. 顧客にホームページ表示するのが0.1秒遅れると売上が1%くらい下がっちゃうなー
  2. うんうんページ表示されないって多分すごいストレスなんだろうなー
  3. そうだなー顧客のためにサーバ増強しよう
  4. でもピークに合わせて設備用意すると大半の時間余っちゃうよなー
  5. あ?時間課金で他社に貸せばいいんじゃね?(*)

この(*)部分が外部にオープンなプラットホームの証左なのです。このループを加速度的に繰り返してAmazonは世界最大の本屋になった。サービスはドンドン良くなるわ、コストは下がるわ、本を買いたいお客さんももちろん喜ぶわ、悪い事などないように思えます。

でもね、この(*)の発想は、個人として頭では理解してても、20年くらい日本企業に勤めていると、ああ絶対無理だよなー日本の社会でこれを実現するのって、と思ってしまう。Amazonを作ろうとするとe-honになっちゃうのが日本型企業の限界ですよ。もうだめかもしれないね。

 

ソーシャルイノベーション

《書評》★★★★☆

社会企業家、ソーシャルイノベーションに関連のある人たちが寄稿して1冊の本にしたもの。社会企業家とは、社会を良くする、人を良くする革新をあまねく広める、くらいの意味かなと思いました。いくら慈善事業をしても「施し」では人は救えない、じゃあ「自分」はどうするか?というのが、ここに載ってる類まれなる才能と努力に恵まれた人たちの記録。

でも、そんな人たちでもいくつもの挫折、モノにならない不安、認められない苛立ちを乗り越えてきているのがわかる。たとえば、がん患者さん〜抗がん剤治療と脱毛が避けられない人たち〜を見て、なんとかしたいと思った三田果菜氏はがん患者向けの美容ケアを専門とする美容室とプログラムを立ち上げる。発端は本当に子どものころ感じた、共感力ともいうべき、人を思いやる気持ちからきているのね。

でも最初説明しても誰も理解してくれない・・・そんなことをあなたがしてどうするの?みたいなことを平気で言ってしまう周囲。でも、仕方がない。人が人であるための力をたいていの人は捨てて大人になる。「そいつの自業自得だ」「自分とは関係ない」「俺も大変だし忙しいんだ」「チョンは全員死ね」みたいな。そうして想像力なく不感になることでしか自分を保てないのが下賤な大人というものであるのだから。

特にU20の若い人には必読の書であると思うし、あなたが人の親であるなら即アマゾンで買って子供にぶつけるが良いよ。本書でたびたび触れられている社会企業家の父ビル・ドレイトン氏は、人の痛みを感じることが大事で、そうした感性を育てるには大学生では遅すぎるそうだから。俺らは手遅れだなw

病んだ部下とのつきあい方

《書評》★★★☆☆

筆者の西多昌規氏は病院の勤務医。学術書めいた話というより、実際の病んでいる人たちを診た結果、くだいた対処方法をしたためた、という本。
前半は部下の病み方のタイプ分析。14タイプについて解説しているが しかし・・・そのうちコミュ障、自己中、あがりやすい、特定職場人間NG、孤立無援、被害妄想、パニックの7タイプに当てはまる俺は死んだほうがいいw
後半は部下を病ませない10のヒント、と称して具体的な対処方法について
書いてある。そのうち4条にある「結果ではなく、努力を誉めて間違いを学ぶ」が心に残った。ミシガン州立大学の実験で、「あっしまった!失敗した!」というときに、エラー陽性電位という脳波を測定したところ、能力の向上があるグループは、前記の信号が強くでる人たちなんだそうな。
いわゆる失敗から学ぶ学習能力の素、のようなものだ。
人間の成長には、プライドを傷付けられる不愉快な経験がどうしても必要であると。逆に、素の頭の良さや、たまったまうまくいった業績をほめるのは自己成長を促すことにはならないと。頑固で誤りを認めない人間に育ててしまうと。
余談だが、最近見てるアニメの一つに、暗殺教室というジャンプ原作のアニメがあるんだが、ちょーど今の放映が、素のエリートであるカルマ君がテストで負けて成長する・・・という内容で、スッと理解できる話であった。
別に上司ではなく自分が病まないためにも良い本だと思うので★3で。

全体最適の問題解決入門

《書評》★★☆☆☆

エリヤフ・ゴールドラット博士の制約理論(TOC)の思考的プロセス(TP)を思い切り噛み砕いた本。

TPは、会社全体が共通の目標&改善意識を持てるようにする、という手順書のようなものです。都合の悪いことを、他人や他部署のせいにせず、お互いがアサーティブな状態で、問題を共有し、両立できうる解決方法を見つける(見つけられたらいいな)プロセス。さらに具体的に言えば「(不都合なことも含めて)起きうる未来を共有し、全員で未来を変える」ということです。

考え方は大いに参考になるけれど、文中で触れられているケーススタディは具体性に乏しく、この本で挙げられている内容だけで会社を変えることはできないんじゃないかなーと思います。自分はかれこれ20年くらい電気メーカーに在籍し、数々の品質改善(QC)プロジェクトにも参加していましたが、この本に書かれていることは、正に「言うは易し」という内容です。ウチの会社が過去、この手のゴミみたいな外部コンサルに騙されて何億円も払っていますが、そのだまくらかす方の人間、経営コンサルには必読書なんじゃないでしょうか。

2ちゃんねるで一時期流行ってた、ライオンが鼻ほじりながら「それ、サバンナでも同じこと言えんの?」といういうAAを思い出す。またはシリア情勢を見ながら、お互いに抱えた問題は切実で互いに歩みよれないものばかりなんだろうけど、しかし数千年の遺跡が壊されたり民族が虐殺される理由としてはあまりにもくだらねーんじゃねーかなー、って、という本誌の内容とは別のことを考えていました。読みながら。

自分をもっと評価させる!技術

《書評》★☆☆☆☆

現代社会において、自分の生きる意味とか、真の実力をつけるか、という話は全く意味を持たず、自分が他人からどう見られるか、どうすれば高く評価されるか、だけを考えていればよい、私は心理学者としてそのテクニックを公開しましょう!という糞うすっぺたい本。

ただ趣旨一貫してはいる。

日本語の文章が少しくらいおかしかろうが、それによって内容の質が落ちてしまうおうが、そんなことは私にとってどうでもいいことなのであり、私にとって最重要なのは、いつでも書店に行けば自分の本が、書店の新刊コーナーの目立つポジションに置かれていることなのである(p.46)

とか堂々と書いてあるので胸は透くような気分になる。露出度を高めろ!自分のブランドを高めろ!他人のやらないことをやれ!自分に自信を持て!という内容が、それなりの論文から牽いてある事例として(引用が正しいか、ということはこの際関係ない)たくさん載っているので、私のように自己評価が極限まで低い人間には良書かもしれません。