オープン・サービス・イノベーション

《書評》★★★★☆

自分的には、製造業の中のソフト屋という、出世街道から外れた曖昧な立場で会社を見た時感じていた強い不安、つまり「あれ?この会社大丈夫なのか?」「自分はシコシコ特許を書きつつも、世間で言うところのイノベーションから遠ざかりつつあるのでは?」という疑問に、一定の筋道を付けてくれた良書です。

すごくおおざっぱに言えば、製品企画を考えて、差別化技術を下請に考えさせて、製品にして出すということは、完全に閉じたサイクルじゃないですか。どの技術を導入し、あるいは捨てて、「一塊の固体」を作って売るというモデルは、いくらリードタイムを短縮して在庫を圧縮しても、過当競争を助長するだけであって、革新にはつながらないと。

単純に言うと、モノは真似される…という歴然とした事実の確認。亀山に巨大工場建てて、大規模投資して、部品の搬入口までステルスにして、機材は内部組み立てして、外部から流入する機材を監視しても製造工程はバレない、みたいな努力をしていたシャープでさえ、今や青色吐息なわけで。エルピーダなんてこの世から消えたじゃないですか。

だから、モノよりコトが大事ということらしい。B2Cの分野だと当然顧客体験という軸は外せないわけで。本書にも事例が多数あがっているAmazonも、最初から今みたいな巨大クラウドプラットホームになりたくてなったわけではないと思う訳です。でもインターネットの本屋として以下のような経過を辿るわけです。

  1. 顧客にホームページ表示するのが0.1秒遅れると売上が1%くらい下がっちゃうなー
  2. うんうんページ表示されないって多分すごいストレスなんだろうなー
  3. そうだなー顧客のためにサーバ増強しよう
  4. でもピークに合わせて設備用意すると大半の時間余っちゃうよなー
  5. あ?時間課金で他社に貸せばいいんじゃね?(*)

この(*)部分が外部にオープンなプラットホームの証左なのです。このループを加速度的に繰り返してAmazonは世界最大の本屋になった。サービスはドンドン良くなるわ、コストは下がるわ、本を買いたいお客さんももちろん喜ぶわ、悪い事などないように思えます。

でもね、この(*)の発想は、個人として頭では理解してても、20年くらい日本企業に勤めていると、ああ絶対無理だよなー日本の社会でこれを実現するのって、と思ってしまう。Amazonを作ろうとするとe-honになっちゃうのが日本型企業の限界ですよ。もうだめかもしれないね。

 

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