午前8時30分頃。
朝のミーティングも終わり、コーヒーを淹れに給湯室に行くと、マリさんが戸棚の前で首をかしげている。
マリさんは栗色のポニーテールがリスをイメージさせるお嬢さん。性格は一言で言えば「せっかちさん」。ふだんは意識してゆっくり話すが、びっくりすると急に早口になる、小動物癒し系である。
「どした?」
「あー、エイザさん。実はー、わたしもー、お茶会にー、入りましてー」
お茶会。総務メンバー有志が会費を出し合い、様々な飲み物を共同購入する会である。ちなみに会費は1,000円/月で飲み放題。
専用の戸棚にはレギュラーコーヒー、インスタントコーヒー、紅茶や緑茶のティーバッグといった定番のみならず、インスタントのキャラメルマキアートやカプチーノ、カフェ・ラテや、ジャスミンティーやプーアル茶、玄米茶のティーバッグ等充実した品揃えを誇っている。
「で、なにを飲もうかと考えている、と」
「そのとーりですっ」
戸棚を眺めているマリさんを横目で見つつ、愛用のステンレス製保温カップにインスタントコーヒーをビンから直接流し込み、ポットのお湯を注ぐ。
保温カップのフタを閉めても、まだマリさんは戸棚を眺めている。それがちょっと可笑しくて、ついつい言わなくていいことを言ってしまう。
「あ〜、時々『ハズレ』があるから、気をつけろよ」
「ハ、ハズレですかっどれがハズレですか?」
ビックリしたのか、急に早口になって尋ねてくるマリさんに対して、私は片頬を歪めるようにして嗤って続けた。
「それは、秘密です」
「えーっ」
そう、人間は自分で学ばねば成長できない生き物なのだ。
午後3時30分頃。
凝った肩をまわしながら、紅茶を淹れに給湯室にいると、マリさんが愛用のコーヒーカップを洗っていた。
「どした?」
「あー、エイザさん。ハズレをー、引いてー、しまいました」
「ほう?」
最初からハズレを引くか。やるなマリさん。
「えーと、黒豆ココアはー、ハズレでしたー。あとー、プーアル茶もー、ハズレですー。そこのなんとかレモンとかー、いうのもーハズレですー」
・・・たった5時間で3つもハズレを引けるキミが心配だよ、お兄さんは・・・。
そんな私の心配を知ってか知らずか、マリさんは続けた。
「でもー、アタリもー、あったんですー」
「ほぅ、どれがアタリ?」
「はい、そこにあるー、『キクほうじ茶』ってー、いうのがー、おいしかったですっ」
・・・「キクほうじ茶」?そんなのあっただろうか。私の記憶にはない。ほうじ茶はあったかもしれないが・・・。
そもそも「キクほうじ茶」ってなんだ?今までの人生においてそんな飲み物、聞いたことがないぞ。
漢字変換すると「菊ほうじ茶」だろうか?菊の花びらが入っているのか?でもフレーバー系なら緑茶の方がいいのでは?いや、お茶に入れるのは桜か梅だろう。そもそも菊の香りってどんなのだっけ?菊の花は「酢の物」だろう?
頭の中で「菊ほうじ茶」を再現しようとしてみるが、うまくいかない。
改めて戸棚の中を見てみる。やはり「キクほうじ茶」はない。
「・・・そんなのないぞ・・・」
マリさんは不思議そうな顔で、戸棚の側までやってくる。
「ありますよー、ほらー、そこのー、黄色いー、パックですよっ」
マリさんはひょいっとティーバッグをつまみ上げた。
「あー、大変言いにくいのだが・・・」
「どーかしました?エイザさん?」
きょとんとした顔で、尋ねてくるマリさん。本当に、言いにくいのだが・・・。あえて重々しく言ってみる。
「それは『茎ほうじ茶』だ」
「へ?」
2秒の沈黙。そして・・・。
「でもっパックに『キクほうじ茶』って書いて・・・あっ『くき』ってフリガナふってあるしっあーっどうしようっはずかしいっ」
ワタワタしているマリさんを眺めながら、妙な癒しを感じた私は心の中でつぶやいた。
「・・・コレが『萌え』ってやつ?」
人間は自分の体験より学ぶ生き物なのである。
朝、ロッカー室で作業服に着替えると、ドアの前でひとりの青年が困った顔をしている。総務のウッちゃんだ。関西出身の文化系爽やかタイプ。いつも柔和な表情と関西系アクセントが特徴の「和み系』キャラである。
なお、アクセントは最初の「ウ」にかけること。
「おはよ、ウッちゃん。どーかしたの?」
「あ、エイザさん」
ウッちゃんは手にしたなにかを掲げてみせる。紺色の革の財布。かなり擦れているが、ぶ厚い。
「いや〜、ここでサイフ、拾いまして・・・」
「誰の?」
ウッちゃんがかぶりを振る。
「イヤ、わからないんですよ。どうしたもんかなぁ、中見ていいもんですかね」
誰のかがわからないと、手が打てないのだ。ちょっとくらいのぞいても問題はないだろう。
「いいんじゃねーか」
意を決したように、サイフを開く。カードポケットからカードを1枚抜き出して、じっと見つめるウッちゃん。
「牢名主さんのですね」
どうやら、同じく総務の「牢名主」さんのものらしい。なら、話は簡単だ。
「じゃ、届けてあげれば、『これにて一件コンプリート!』ってとこだな」
「そーですね・・・で、なんです、それ?」
「・・・内緒・・・」
そこに眼を吊り上げた牢名主さんが入ってくる。四角い顔に四角い体。太い胴、太い腕、太い眉毛。剣道の有段者であり、昔は警備室でルールを守らない社員・業者をコブシで黙らせていた、といわれるオッサンである。
慌てた様子の牢名主さんにウッちゃんがにこやかにサイフを差し出す。
「あ、これ落ちてましたよ」
「おお、助かった!」
牢名主さんは大きく安堵のため息をついた。
_ 「で、ウッちゃんにお礼しました?」
10時過ぎ。喫煙所で牢名主さんに会ったので聞いてみた。牢名主さんは、太い眉をひょい、とあげる。なんのこっちゃ、という表情だ。
「お礼?」
「ほら、落し物拾ってもらったら、お礼しなきゃ」
おどけた口調で続けると、喫煙所にいたワタさんとナベさんが尻馬に乗ってくる。
「いや〜、やっぱりお礼はしないとね」
「武道は『礼に始まり、礼に終わる』って言うしな」
それは、ちょっぴり違う気がするが。まぁ、面白いので無視して続ける。
「世間では1割くらいが相場ではないか、と」
「・・・」
無言で、なにか考えている牢名主さんであった。
_ お昼休み。昼食後の一服をしていると、牢名主さんがやってくるなり言った。
「おう、エイザ。ウッちゃんにお礼しといたぞ」
あら、意外。そんなことはしないだろうと思っていたのに。
「それはいいことですね」
とりあえず、当たり障りのない答え。それに答えて牢名主さんが続ける。
「オゥ、お菓子を買って届けたぞ」
「まぁ、妥当なところっスね」
まぁ、そんなところだろうな、いくらなんでも現金のやり取りはよろしくないよなぁ、とか考えていると、牢名主さんがニヤリと嗤う。
「ウッちゃんには、『コレはお前へのお礼だからひとりで食え』って、言っといたぞ」
「・・・なんスか、それ」
とてつもなくイヤな予感のするエイザであった。そしてこういう予感の的中率は異様に高いのである。
5分後。ウッちゃんの席にさりげなく近づいて聞いてみる。
「ウッちゃん、牢名主さんからお礼もらったんだって?」
PCから顔をあげたウッちゃんは顔面にうつろな笑みを貼りつけて言った。
「エイザさん・・・コレ、どうしましょうか?」
そういって視線の先を机の上のお菓子に向ける。私もそのお菓子に視線を向ける。そこにあったのは・・・。
「せんべいだな」
「全部、もらったんですけど・・・ひとりで楽しめって・・・」
そこにあったのは数枚のせんべい。ただし、すべてのせんべいが唐辛子まみれの「激辛せんべい」であった。
牢名主さん、あんたは鬼だ。悪魔だ。インフェルシアだ。エヴォリアンだ。スマートブレインだ。グロンギより性質が悪いぞ。
「・・・コレ、どうしましょうか」
ウッちゃんが困った顔でこちらを見上げてくる。私にはこう言うことしかできなかった。
「・・・ガンバレ!」
蛇足
15時過ぎ。ウッちゃんからメールが届いた。一部を引用してみる。
「せんべい辛過ぎ〜〜〜!!!(T◇T)
ほとんど罰ゲームですな。。。(- -;)
涙が止まらない。。。」
彼がいったいなにをしたというのだろう・・・。そしてこの罪悪感はなんなのだろう・・・。
昼食時。ビビンバをかき混ぜながら、O女史がため息ひとつ。
「なに、ため息なんぞついているんですか」
「うん、週末からの海外出張の件でねぇ」
そう、O女史は仕事で東南アジアの某王国に出張するのである。
「そういえばちょっと政情不安ですよね。デモとかやってましたし」
定食のから揚げをかじりながら聞いてみる。
「ううん、それは大丈夫なの〜」
やはりそうか。暴徒やゲリラくらいではO女史はビビらないか。
「じゃあ、なにが不安なんですか?」
O女史はお手上げのポーズをしながら叫ぶ。
「だって、タヌキと一緒ですよ。出張中、ずーっと一緒ですから!」
・・・確かに出張中ずーっとタヌキ課長と一緒に行動する予定なのだ。私なら絶対逃げる。というより出張やめるかもしれない。
「なぁに、捨ててきちゃえばいいじゃん。山奥にさ」
無責任なことをいうのはナベさん。50過ぎの伊達男。唐辛子をいっぱいかけたカレーを頬張りながらニヤリと嗤う。
うーん、その手があったか・・・。しかし、あんなものを捨てていったら日本の評判が悪くなるのではないだろうか?とりあえず反論してみる。
「産業廃棄物を捨てるな、と王国政府に叱られるのでは」
姐さんが後を引き継ぐ。
「・・・外来種による生態系の破壊が心配ね」
「ブラックバスとか、アメリカシロヒトリとか、セイタカアワダチソウとかそういう奴か・・・」
左手を顎にあてて考え込むナベさん。
「確かに日本の評判が悪くなるのは困るな・・・」
確かに困る。でもタヌキ課長が近くにいるのも大変なのだ。悩ましいところである。
「白い粉でも持たせようか?でもって王国の官憲にチクるとか・・・」
ねぎミソラーメンをすするのをやめて、無茶なことを言うのはワタさん。50過ぎの実直そうなおじさん。しかし時々すごいことを言う。
「言い逃れは上手そうよ・・・おべんちゃらとか賄賂とかもね」
姐さんがため息をつきながら言う。ここまで言われる管理職ってどうなんだろう。
「私に責任押し付けられそうですから・・・残念!」
再度O女史がお手上げポーズ。
仕方がない。私もアイディアを出そう。
「素直にロケットランチャーで飛行機狙うか・・・」
「それ、つまんないです」
いきなりO女史に却下される。しかしテロ行為をつまらないの一言で斬って捨てるO女史もO女史である。
「っていうより、Oちゃんも乗ってるんじゃないの?」
当然出てくる疑問をチョーさんが突っ込む。
「・・・たしかに。私も乗ってますから。残念!」
今頃、気付くなよ。
ここで、ナベさんがニヤリと嗤う。
「せっかくのエイザの人脈が生きるとこだったのに・・・残念だなぁ」
「なんスか、それ?」
思わず食いついてしまうと、ナベさんが楽しそうに続ける。
「やっぱり工作員同士のネットワークとかあるんだろ?」
「知りません、っていうか『工作員』ってなんなんですか!」
「あ、秘密だった?ワリィワリィ」
・・・どうしてどこにいっても「工作員」扱いされるのだろう。
「秘密も何も、そんな事実はありません!」
「いや、3年前の不審船に乗って新潟に上陸したんだよな」
・・・人を勝手に「デブパーマ王朝」の臣民にしないでいただきたい。
というより、なんにでも唐辛子をかける人に言われたくない。
だが、既に解き遅く、チョーさん、姐さん、O女史が口々に勝手なことを言い始めるのであった。
「エイザちゃんって横浜市チベット区出身じゃ・・・」
「○○スタンとか、そういう名前の国の様な気がするけど・・・」
「いずれにしても工作員は確定ですから!残念!」
世の中には「工作員オーラ」とかあって、私はそれを四六時中出しているのだろうか。
でも、そんなオーラを出していたら、工作員失格ではないかと思うエイザであった。
_ ぱ [デスクトップ組んでやるから買わないか?]
_ 通りすがりのあいあん [私ゃ今ベアボーンのノートPCで書き込んでますが、安いし、軽いし、オススメですぜ。壊れてもそこの部品だけ差し替えられる..]
_ ぱ [ベアボーンもいいがeizaの場合、PC自体は素人だからな。 VAIO BXあたりをオーダーメイドで買うのがいいかもし..]
_ エイザ [コメント謝謝! パソコンについてはまず修理できるか、当たってみるつもりです。 「もったいない」の心が大切ですよ。 ・..]
_ ぱ [インバータ(要するに蛍光灯な)かフレキシブル基板の故障なら1万円。蛍光灯なら2万円。液晶パネル本体なら軽く5万コース..]
金曜日の夕方。パソコンとファイルと書類と格闘していると、フミさんが途方にくれた顔で近づいてくる。
フミさんは昨年度入社の女性社員。小柄で色白、青いセルフレームが知的なお嬢さんである。
しかし、クマ三郎くんの偏愛する所謂「めがねっ娘」ではない。いつも丁寧な口調だが隙がない。相手を追い込まずに状況をうまくコントロールする「腹黒メガネ系」。フミさんがこうやって近づいてくるときは、たいていろくなことにならないのである。
それはともかく、近づいてきたフミさんがにっこり笑って尋ねてくる。
「エイザさん、お時間ありますか?」
「ない!」
即答する。フミさん相手に情けは無用である。
「実は困っているんです〜」
・・・キミは困ったときしか来ないだろう、という言葉は飲み込んでおく。
「実は・・・運動会の件なんですけど・・・総務からのメンバーが足りないんです〜」
フミさんは困ってまーす的な口調で続ける。何度この口調にほだされ、だまされ、こき使われたことか。今日はだまされないぞ!
ここで説明せねばなるまい。うちの工場では年に何回か、労働組合と共催でいくつかの懇親イベントを開催している。そのうちのひとつが「運動会」である。「運動会」といってもたいしたものではなく、夕方に開催。2つくらいの種目で競い合う、というものだ。
ちなみに去年の種目は「綱引き」と「玉入れ」。私は「綱引き」に参加させられ、翌日全身筋肉痛に苦しんだ記憶がある。
「運動会って、今日か?」
「はい」
・・・今日やるイベントのメンバーを今日集めるな、という言葉は飲み込んでおく。
「私は不参加にしておいた、と思うが」
ちょっとイジワルな口調で切り返す。しかしフミさんはまったく動じた気配もなく、助けてー的口調で答える。
「実は・・・参加予定のムジナ部長とキツネ課長が外出先から戻って来ていないんです。で、総務からの参加者がひとりもいないので・・・」
「総務のメンツが立たない、ってことか・・・」
仕方ない、一肌脱がないわけにはいかないか。
・・・なんか、だまされてるぅ〜。
会場の体育館に行くと実行委員のヨッシーと労働組合の支部長が待っていた。支部長曰くヨッシーに頼まれて連れてこられたとのこと。フミさんもヨッシーも「準備不足」である。総務の仕事は「前捌き」だと、何度も言ってるだろーが!少しは「学習」しろ!プラナリアだって「学習」するんだぞ!
「では、運動会をはじめまーす」
長髪、メガネのヨン様似の実行委員の宣言で運動会が始まった。種目は「変わりモノリレー」と「長縄跳び」。「長縄跳び」はわかるけど「変わりモノリレー」ってなんだ?
「リレーは1チーム15人で行いまーす。人数は足りてますかー」
ええ、ギリギリですが何とか足りてますよ。我々は「青チーム」だそうで、S・Kの2研究所と総務の寄り合い所帯である。で、なぜかフミさんからタスキが回ってきたので、首に掛けておくことにする。
「では、最初の2人は『二人三脚』で向こうのコーンを回ってくださーい。続いて次の2人は大玉を押してくださーい。次の3人は台車を押してくださーい。」
・・・確かに変わったリレーだわ。
しかし、解説は続く。
「次の3人はお玉に入れたピンポン玉を落とさずに運んでくださーい。で、最後の5人は「馬跳び」しながらゴールしてくださーい」
これはアンカー用タスキですか・・・ということは馬跳び確定ですか・・・。一番疲れそうな種目だ・・・イヤだなぁ。
「では、位置について!よーい、ドン!」
ピストルの音とともに4チームいっせいにスタート。と同時にスピーカーから「トランペット吹きの休日」が流れ出す。
・・・いかん、この音楽を聴くと、無性に走りたくなってしまう!行くぞ野郎ども!狙うは1等、それだけだァァァッ!!
というわけで、うちのチームはめでたく1等になり、50点獲得したのであった。
「では、次は長縄跳びでーす」
ヨン様(仮)がマイクにむかって叫ぶ。こちとら20年ぶりに馬跳びなんぞしたので、息が上がっているのですが・・・。
しかし、ヨン様(仮)はお構いなしに続けた。
「ルールは簡単。3分間に何回跳べるかを競います。点数は跳んだ回数×跳んだ人数でーす」
・・・ていうと、8人で7回多く跳ばれたら、50点差はパー。何のためのリレーだったんだ、と言う言葉は飲み込んでおく。
こうなったらヤケクソ。縄跳びでも何でも跳んでやる!
「では、位置について!よーい、ドン!」
ピストルの音とともに4チームいっせいに長縄跳びを跳び始める。しかし、これがツライ。10回も跳ぶと足が疲れてくる。20回跳ぶと膝が上がらなくなってくる。
誰か、引っかかってくれないかなぁとか考えるが、誰も引っかからない。30回、息が切れてくる・・・もうダメだ〜。
が、BGMは「ロッキー 愛のテーマ」。う、このくらいで弱音を吐いてはいかん!悔しいけれど、ボクは男なんだな・・・。エイドリアーン!
気がつくと、60回ちょっと跳んだところで、誰かが力尽き、縄の回転が止まる。研究所の若いメンバーと交替して、地獄の長縄跳びから逃れることができたのだった。
結果、我々は800点を獲得、長縄跳びも1等、そして総合優勝の栄冠も勝ち取ったのである。
しかし、私には気になることがあった。リレーには参加し、3人がかりでピンポン玉を運んでいたフミさんが、なぜか長縄跳びの時にはいなくなっていたのである。
「フミさーん!どうして縄跳びのとき、いなかったのよ?」
しかし、フミさんは悪びれずにこう答えるのだった。
「あら、バレてました?疲れるので、隠れていたのに♪」
そして、笑顔で続ける。
「まぁ、懇親会でビールでも飲んで、細かいことは忘れてしまいましょうよ♪」
・・・おのれ!7回生まれ変わっても、忘れねーぞ!
給湯室でお茶を淹れていると、後ろで小さな悲鳴があがる。なんだ?どうした?
振り向くとマリさんが洗濯機の中を覗き込んで途方にくれている。ふと、目が合う。急にニコリと微笑むマリさん。
「エイザさんっ、教えてくださいっ!」
「なにを?」
「えーと、洗濯機のー、ことなんですけどー」
・・・設備担当になったことはないんですが。何故、私に訊きますか?
「えー、機械にー、強そうなー、感じがしますしー。なんていってもー、OA担当じゃないですかー」
違う違う、洗濯機はOA担当の業務じゃない〜。OA機器でもない〜。
それはともかく、どうかしましたか?
「洗濯機のー、なかにー、水がー、溜まっているんですっ」
言われて洗濯槽の中を覗き込む。洗濯物はひとつも入っていないのに、なぜか水が10cm程、溜まっている。
「どうやったらー、水がー、抜けるんでしょうか?」
洗濯機の操作パネルを触りながら、マリさんがつぶやく。いや、マリさん?聞きたい事がことがあるのだが・・・。
「うーん、最近のー、洗濯機はー、よくー、わからないですねー。これかなー?」
マリさんがスイッチを押す。するとドババーッと注水が開始され、なお一層の水が溜まっていく。
「あれっ、あれっ、ちがうっ、どうしよう」
早口モードに切り替わり、慌てて他のスイッチを押し始めるマリさん。そりゃそうだよなぁ。スタートボタン押したら、水が入ってくるのは当たり前である。コーラを飲んだらゲップが出るくらい、確実である。
「えいっ、えいっ!」
手当たり次第にスイッチを押すマリさん。ピーッとアラームがなって注水が止まる。ついでにパネルのLED表示も消える。いきなりメインスイッチを切ってしまうのはどうか、と思うが。
「水はっ止まりましたっ!で、水を抜くにはっ、どれを押せばいいんでしょうかっ」
「排水ボタンっていうのは、見当たらないね。ところでさぁ・・・」
「あ、わかりました!」
人の話をさえぎって、頬にあてていた人差し指を振りながらマリさんが叫ぶ。
「脱水ボタンをー、押せばー、水が抜けるはずっ、えいっ」
ピッと脱水ボタンを押し込む。ジョロジョロと洗濯槽に溜まった水が抜けていく。
「ふー、これでー、ひと安心ですねー」
大きく息をついて、マリさんが洗濯機のフタを閉じる。満足げな笑顔を浮かべるマリさん。いや、マリさん?聞きたいことがあるのだが・・・。
しかし、しばしの沈黙の後、マリさんが叫ぶ。
「えー、どーして」
洗濯機がゴトゴトいいながら振動する。そりゃ、脱水ボタンを押せば、脱水が始まるのは当たり前だろう。ビールを飲んだらトイレに行きたくなるくらい、確実である。
空の脱水槽は高速回転を始め、風切り音はヒューヒュー漏れ出す。慌てたマリさんが再度スイッチを押す。ピッ!。また電源を落としてしまうマリさん。プツン、ガタガタガタッーという感じで洗濯機が止まる。
「エイザさーん。どうしたらー、いいんでしょうねー」
洗濯機相手に奮闘というか狼狽というか・・・。そんなマリさんに対して聞いてみる。
「なぁ、洗濯機の中に、水が溜まっていると、なんかデメリットでもあるのか?」
動きが止まるマリさん。そしてのろのろと顔をあげる。
「デメリットー、ないですねー・・・」
「ひょっとして漬け置き洗い用に、水が溜まるようになっているのでは・・・」
「その可能性もー、ありますねー」
そのまま時間が止まる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そして、時は動き出す。
「水がっ溜まっているの知らなかったのでっビックリっしたんですっ普段使わないんでっでもウチではっちゃんとっやってますっ本当っですっ」
恐慌状態のマリさんを眺めながら、なぜか、癒し気分に浸れてしまうエイザであった。
お昼休み直前。なにが逆鱗に触れてしまったのか、よくわからないうちにタヌキ課長に応接室に拉致られた。
で、お昼休み中に空きっ腹を抱えながら、タヌキ課長と大ゲンカとなったわけだが、それはあまり関係ない。
とにかく、優勢のうちに戦いを進め、両者痛み分けということでタヌキ課長と手打ちにしたわけだが、問題はその後。
私は怒ると「無表情」になるタイプなのだが、あまりにエキサイトしたためか、緊張した時間が長すぎたためか、顔の筋肉が張ってしまい、元に戻らなくなってしまったのだ。つまり「目が怒っている」状態で表情が固定されてしまったのだ。かててくわえて私はもともと「へ」の字口。「怒りを押し殺しているような」不機嫌顔の出来上がりである。
それだけではなく目の下から頬骨に掛けて違和感があり、目が妙に潤んでくる。鼻も妙にグズグズして気持ち悪い。はっきり言って不快である。
そんなこんなで途方にくれている夕方、業務書類をチョーさんに届けに行くとO女史と姐さんとが私の顔を見て勝手なことを言ってくる。
「ねぇ、なんかあったの?コワイ顔して・・・」
「なんか怒ってるの?」
「顔つきが悪いだけじゃないの?顔も悪いですから、残念!」
どれがO女史の発言かは言うまでもない。
「失礼な!・・・いや、怒っているわけではないのです」
ジロリとO女史を牽制し、心配そうな2人に向かって言い訳を始める私。
「実は、顔の筋肉が硬直していて、表情が元に戻らないのです」
・・・一瞬の沈黙。
「そんなこと、あるんだ〜」
これは姐さん。続いて首を捻っていたチョーさんが尋ねる。
「・・・それって、日焼けのせい?」
そんなこと、あるわきゃないだろう。
とはいえ、タヌキ課長とケンカしたので顔が硬直したのです、とか言うわけにも行かない。困りきって黙っていると、O女史がニコニコ笑いながら言う。
「エイザの顔は、コワくて、黒くて、固まってるのか〜♪」
チョーさん、姐さんがO女史の顔をまじまじと見るが、気にせずO女史は続けた。
「エイザの顔は、『三重苦』ですから!残念!」
事務所内のかみ殺した笑い声を聞きながら、それよりO女史の方が脅威だ、という言葉を飲み込むエイザであった。
蛇足
その後もO女史から「プチ整形した?」とか「マブタ二重にしたの?」とか苛められるのであった(涙)。
スペインの赤い風の中で、私はその老人に出会った。
灰色にくすんだ頭髪と髭、目尻に刻まれた深い皺。老人が過酷な長い旅を続けてきたことを物語っていた。
老人は言った。もう疲れた、自分の代わりにこいつを歩かせて日本まで届けて欲しい、それが「約束」なのだ、と。
私は黙って頷き、「約束」を引き継いだ。
老人から受け取ったプロポのスイッチをいれ、左手の親指でコントロールレバーを前に倒した。
それと同時に、地面に転がっていたカブトムシがのそのそと6本の足を動かし始めた。
このプロポで機械仕掛けのカブトムシを歩かせて、日本まで行くのだ。それが「約束」だった。
そして旅が始まった。
赤く錆びたレールに沿って、カブトムシの背中を見守りながら赤い砂漠を横断した。
吹き降ろされる白い風に逆らい、カブトムシの背中を見つめつつ氷の山々を越えた。
黒い泥に足を取られながら、カブトムシの背中を見落とさないようにくすんだ湿地帯を歩き続けた。
そして、長い長い旅路の果てに下関にたどり着いた。
貨客船のタラップをカブトムシに渡らせながら、最後に降りるとそこには一組の家族が待っていた。
若い夫婦と小学生くらいの少年。
少年は泥にまみれ、擦り切れて白くなったカブトムシを拾い上げて尋ねた。
本当に、世界を一回りして帰ってきたのか、と。
私は無言で頷き、少年にプロポを返す。そして夫婦に一礼してそこから立ち去ろうとして背を向けた。
その時、胸の中からなにか熱いものがこみ上げてくる。
瞼の裏からも涙が溢れてくる。
なにかをやり遂げた思いに飲み込まれながら、ただ涙を見せないよう、そこから歩き去った。
そして、目を覚ますといつものベッドの中。
なぜか、涙で枕を濡らしている。
鮮やかに残っている夢の記憶をたどりながら、自問する。
・・・私は、なに感極まって泣いているんだろうか、と。
それと同時に考える。夢の中の感動はやはり夢の中にしかない偽者なのか、それとも・・・。
というわけで、今回は「夢オチ」。いったい、どんな思いがこんな夢を見せたのか。誰か夢判断、プリーズ!
立ち塞がりしは「黒い巨人」。鍛え上げられたしなやかな体躯は剛勇無双。
携えし戦槌(モール)は一撃必殺の威力を誇り、まともに当たれば肉は潰れ、骨は砕ける。
かすっただけでも肌が裂けようとの一撃を前にして勝機は如何に・・・。
突然ですが、私にはWBC決勝戦「キューバVS日本」はこのように見えていました。フィジカル面で圧倒的に優位なキューバに対して日本はどう戦うのか。少しでも気を抜けば一気にもっていかれそうな相手にどこまで集中力を維持できるか、それが勝利の鍵だ、と。
結果から言うと、日本代表は相手の力を恐れつつも怯えることなく懐に飛び込み、ダメージを積み重ね続けることができた、最後まで心が負けなかったことで勝利をつかむことができた、と感じました。これに奢らず、精進を重ねていってもらいたいものです。
一方のキューバもさすが「アマチュア世界一」を謳われる実力を発揮し、特にキャッキャーのフィールディングと強肩は、もう日本の機動力を封じられたのでは、と思わせる程すばらしいものでした。
いずれにしても、刃の上を歩くような、見ごたえあるすばらしい試合でした。また、どう聞いても日本人の発音ではない「ニッポンコール」やキューバのキャップをかぶって声援するヨーロッパ系アメリカ人の姿、試合終了後にイチローと写真を撮るキューバの選手、そして敗戦後のキューバ監督の「次は我々が勝つ」「もっと技術を高めなければならない」というコメントまで含めて、WBC決勝にふさわしい「美しい」試合だったと思います。
そして、すべての勝者と敗者に祝福あらんことを。
・・・でも、こんな試合見てしまうと「ジャ○アンツ愛」とか言ってる某×人戦なんか、ヌルくて見てられないよなぁ。
今日はヒロ課長が川崎にくる日である。他人事ながら本社をこんなに空けていいのだろうか、と心配になる。
「はは、本社の人からは、『川崎妻』の方がいいんだろう、とかイジメられてますよ」
笑いながらヒロ課長は言う。・・・「川崎妻」?・・・O女史のことかぁー!
そんな恐ろしげなことを言う本社の人も問題だが、笑って流せるヒロ課長も大物である。
そんなこんなで昼食時。ヒロ課長、O女史とチョーさん、姐さんとテーブルを囲んでいると、突然O女史がヒロ課長に向かって言う。
「ヒロ課長ヒロ課長、5月×日、休みますから。残念!」
・・・なにが「残念!」なのか、ボクにはよくわからないよ・・・。
「なにが『残念!』なんだかよくわからないけど・・・。そんな先の事、言われてもねぇ」
にこやかに答えながらも、胸ポケットから手帳を取り出し予定を書き込むヒロ課長。当たり前のようだが立派である。
「その日は子供連れて、ネズミーランド(仮)に行く予定なんだな、これが」
誰にも聞かれていないのに、予定の説明まで始めるO女史。しかしなぜか気が乗らなさそうである。普段のパターンなら「私、みんなが仕事している間に遊んできますから!携帯もメールも通じませんから!残念!!」とか言いそうなものなのだが。
ナポリタンを巻いていた手を休めてチョーさんが尋ねる。
「あれ?Oちゃんはネズミーランド(仮)のこと、キライって言ってなかったっけ」
意外な事実、発覚である。ネズミーランド(仮)のことを「キライ」と言い切る人は珍しいのではないだろうか。
「うん、キライですから。でも子供は行きたがるんだなぁ〜、残念!」
「え、どうして。ネズミーランド(仮)、楽しいじゃない。『夢の国』だし。」
目を丸くしたヒロ課長が尋ねる。なにか信じられないものを見たという表情だ。きっとヒロ課長本人はネズミーランド(仮)が好きなのだろう。
しかしO女史は「夢の国」というフレーズに大きくうなずいて、続ける。
「そうそう、そこですよ!そこが『ウソ臭い』じゃないですか!」
「『ウソ臭い』?」
首をひねるヒロ課長。だがO女史は構わず続ける。
「大体、子供が泣いてるとミッ○ーとかがとんで来るんですよ!それでなぐさめるんですよ!そんなこと、ありえませんから!」
そりゃ、ネズミーランド(仮)の外で○ッキーとか○ナルドがとんで来たらコワい。だがネズミーランド(仮)内ならいいじゃないか。
「お菓子落としたら、拾ってくれるんですよ!ありえな〜い!!」
ネズミーランド(仮)の外でも、誰か落し物くらいは拾ってくれそうな気がするのだが。
それを聞いてサラダをフォークでつついていた姐さんが尋ねる。
「それって、ミッキ○とかド○ルドじゃなくて、親切にされることを言ってるわけ?」
O女史が大きくうなずき、フォークを振り回しながら主張する。
「そうです。世の中はそんなに甘くありませんから!弱肉強食の世界ですから!残念!!」
・・・なんとすさんだ世界観であろうか。しかも「笑顔」である。笑顔で「弱肉強食」を肯定するO女史。絶対教育上良くないと思う。
「さ、殺伐としてるねぇ」
引きつった顔で答えるヒロ課長。そうだよなぁ。いきなり「弱肉強食の世界」を持ってきてネズミーランド(仮)を否定されたら面食らうよなぁ。
「世の中って、そんなに『弱肉強食』ではないのではないでしょうか。少なくとも『親切』くらいはあるのでは?」
一応、ダメ元で聞いてみたところ、こんな返事が返ってきた。
「そんなに世の中、甘くありませんから!ウチの子供がエイザみたいに『弱肉』されるのはイヤですから!残念!!」
巨大なダメージを受け、一刀両断された私の耳にチョーさんと姐さんのつぶやきが飛び込んでくる。
「エイザちゃんが今日も弱肉されてるわ」
「Oちゃんがエイザちゃんを強食してますね」
それに対してツッコむ体力も精神力ももはや残っていないエイザであった。
金曜日の夕方。蓄積した疲労がレッドゾーンに入ってきた頃。
マグロさんはいちいち立ち上がるのに、「ちゅあぁ〜」とか「あちゃ〜」とか悲鳴を発し、ロックさんはいそいそと早帰りの準備を始める頃。
私は「失効契約書チェックリスト」を完成させるべくキーボードと格闘を続けていたが、どうやらもう少しかかりそうだ。そろそろ手と目が疲れてきたのだが、頑張るしかあるまい。
と、そこにO女史から突然お呼びがかかる。
「エイザー、さっき送ったmail、見てくれた?」
いつも肩から引っかけているゲート○ェイのウシ柄毛布をたたんでイスの背に掛けながら、にこやかに尋ねてくるO女史。どうやら今日は帰り支度に入っているようだ。
「いえ、まだ見てませんが・・・」
こちとらExcle画面のまま、mailチェックをする暇もなかったのだ。コーヒーを淹れる時間とタバコをふかす時間はあったのだが・・・。
「えー、まだ見てくれてないの〜、なんで〜」
非難の声を上げるO女史。
慌ててOutlook画面に切り換え、mailチェックを始める。何件かの問い合わせ・依頼・通知に混じってそのmailは届いていた。
「今から、見ますから」
念のため、O女史に一声掛けてそれらしきmailを開く。
「私、用事あるから先帰りますから、残念!」
トートバックに携帯電話を押し込んで、O女史が立ち上がる。手をひらひら振りながら事務所から出て行くO女史。
ひょっとして怒っているのだろうか?だとしたら大ピンチである。月曜からの会社生活に重大な支障をきたしかねない。ともかくフォローのためにもキチンと対応する必要がある。
まず、タイトルを見る。空白、ブランク、まっしろしろ。添付ファイルもない。本文はただ1行。
「業務の参考にしてください。O」
その下には、こんなURLがリンクされていた。
http://mag.udn.com/mag/campus/storypage.jsp?f_ART_ID=26703
・・・なんか、業務の参考になるページなのだろうか。
リンクをクリックしてみる。
・・・・・・・・・・・・。
orz。
敢えてコメントはしない。
業務中。昼食後の眠気との戦いもひと段落ついたころ。
「エイザさんっ、お時間がー、よろしければー、教えてー、くださいっ」
マリさんがやってきて不思議なことを言い始める。
「あのー、『圧縮』のー、『圧縮』ってー、できますかー?」
なんだ、そりゃ?マリさんの質問には時々主語と目的語がないので面食らう。
私の頭の上にはハテナマークが浮かんでいたのだろう。マリさんが再度尋ねてくる。
「写真をー、mailで送りたいんですけどー、容量を超えてしまうのでー、圧縮したんですがー」
わかりました。よくわかりました。
「で、圧縮したけどまだ容量が大きすぎて送れない、と」
「その通りですっ」
話が通じたのがうれしかったのか、笑顔で頷くマリさん。
「で、圧縮のー、圧縮がー、できればいいなぁー、って・・・。」
・・・そうか、そう来たか。
「すまないけど、二重三重に圧縮ができるって話は聞いたことがないなぁ」
「えー、そうなんですかぁ」
しゅんとするマリさん。だが、そんなことができたら、世の中に容量不足の問題はなくなるぞ。
「じゃあー、mailを分けるしかないんですかぁー」
いくつか対応策を検討してみる。①別の圧縮ソフトを使う ②写真の解像度を下げる ③mailを分割する。で、検討開始。③はマリさんが嫌がっているので、最後の手段。①は説明がめんどくさい上にマリさんが混乱しそうなのでボツ。消去法で②を当たってみることにする。幸い、ただ写真を送るだけで印刷物に使うわけではないらしいので、PictureManegerで画像圧縮の方法を説明する。
しかし、どうもマリさんは納得していない。
「・・・どうした?この作業で500キロバイトの写真が33キロバイトになったから、大丈夫だと思うけど・・・」
マリさんは急に真面目な顔つきになり、尋ねてくる。
「エイザさんっ!わたしはー、いまひとつー、基本がー、わかってなくてー」
「いいよ、わかる範囲で答えるから」
マリさんは続ける。
「えーとぉ、『ギガ』と『キガ』と『メガ』ってー、どう違うんですか?」
・・・そこからわからんのか?!ってちょっと待て!
「すまん。もう一度言ってくれ」
「ですからー、『ギガ』とー、『キガ』とー、『メガ』のー、違いですー」
・・・「キガ」ってなんだ?「キガ」・・・「飢餓」?何故、ここで飢えたりするのだ?
私の頭の上にはハテナマークが浮かんでいたのだろう。マリさんがメモ紙を取り出して
「えーと、字で書くとーこーです」
メモ紙に書かれる文字。G、K、M。
・・・ひょっとして「キロ」のことですか?しかも順番ちがってるし。
「マリさん。『K』は『キロ』って読みます。1000倍って意味。ほら、1000メートルは1キロメートルっていうじゃない。」
マリさんは目をまん丸くする。つづいて納得の光。手をポンッと打つ。
「えー、キロなんですかー!てっきり『ガ』でそろえてあるものだと思ってました!」
もしそうなら、『テラ』はどーなる!『テガ』とかいうのか?
「で、次が『メガ』。1000の1000倍で100万倍のこと。『ギガ』はその1000倍。」
「じゃあじゃあ、『K』の次が『M』で、『G』はその次なんですね!」
「そう。キロ・メガ・ギガの順。」
深く頷いたマリさんは電卓を取り出し、送付する写真ファイルの容量計算を始める。何故、電卓?
「えーと、キロは1000だから、この写真が3万3千バイトでぇー・・・」
何故かバイト単位で容量計算を始めるマリさん。当然、最後の3ケタは全部「0」。しかしそれをツッコむ気力はないのであった。
「mailで送れるのがー、5メガでー。それはー、500万バイトだからぁー・・・」
・・・まぁ、確かに子供のころメガだのギガだのの単位を日常で使うとは思ってなかったけど。
今日はイカマリの日♪おいしくイカマリをいただきながらエンヤーさんのことを考える。そう、数日前に展開されたイカマリの危機を・・・。
その日、お役人が突然来襲。ところが担当のタケちゃんマン課長不在で大ピンチ。あわててタヌキ課長はエンヤーさんを召喚。そのパワー(?)でなんとか危機を脱したのだった。。しかしその代償は・・・。
で、夕方。事務所でひと休み中のエンヤーさんがO女史にカラミ始める。
「今日は仕事にならなかったなぁ〜。総務から給料もらいたいくらいだよ」
PCのキーを叩いていたO女史が顔をあげてにっこりと笑う。
「わたし、総務のメンバーじゃありませんから!残念!!」
確かに所属は本社広報部。総務のメンバーではない。しかしエンヤーさんもタダではひかない。
「じゃあ、Oちゃんからタヌキさんかムジナさんに言ってよ〜」
「なんで、わたしがそんなことしなきゃいけないんですか?」
「お役人対応に失敗していたら、広報の仕事が増えるんだよ。それに比べればラクなもんじゃないですか」
確かに「不祥事」が起こると広報は大変である。しかしすでに論点が大きくズレている。そもそも不祥事にはなりえないと思うのだが。
「マグロさんに頼んでください!」
「マグロに頼むと余計なオマケが付いてくるんだもん」
即答するエンヤーさん。過去になにかあったのだろうか。
「じゃあ、ロックさん!」
「ロックに頼むとかわいそうだろ」
即答するエンヤーさん。わかる人にはわかるのだなぁ。
あーたらこーたら。すでにエンドレスモードで言い争うO女史とエンヤーさん。
しかし、ニヤリと笑っていつもの決めゼリフを吐くO女史。
「わかりました!カラダで払いますから!」
今回初めて登場させたが、この「カラダで払う」もO女史の決めゼリフである。なにか頼むとき決まって「カラダで払いますから!」と付け加えるのである。
しかし、そこはエンヤーさん。すぐに言い返す。
「いいっ!Oちゃんのカラダならいらない!」
コンマ3秒ほど黙りこむO女史。だがすぐに反撃を開始する。
「なんでー?腹筋も6つに割れているのにぃ」
「いや、カラダ以外のもので払ってください!というより、カラダならいらない!」
「え〜、それは『セクハラ』ですから、残念!っていうか、カラダで払わせろ!」
「普通、男が『カラダで払え』って言うのがセクハラ。私はいらないっていってるから、セクハラじゃない!」
あーたらこーたら。どこまでもエンドレスモードで言い争うO女史とエンヤーさん。
しかし対岸の火事と眺めていると、いきなり火種が飛んでくる。
「じゃ、オマケ!エイザのカラダもつけますから!」
人のカラダを勝手にオマケにつけるな!
とにかくこのままだとエンヤーさんに売り飛ばされかねないので、提案してみる。
「あの〜エンヤーさん。『イカマリで払え!』とか言ってみたら、いかがでしょうか」
その時エンヤーさんの顔が輝いた。ポンッと手をうち、満面の笑顔で続ける。
「おお〜っ!それはナイスなアイディアだっ!1イカマリで手をうとう!」
・・・エンヤーさんの1日の労働対価は「1イカマリ=260円(2006年3月現在)」らしい。というよりそんなに安くていいのか?不安である。
しかし今度はO女史がシブい顔になる。
「なんてこと言うんですか!わたしのイカマリはわたしのものです!エイザのイカマリならあげます!」
だから、何故私の方に振るのだ?というより人のイカマリを勝手に売り飛ばさないで欲しい。
「いや、カラダで払うのもイカマリで払うのも一緒じゃんか!」
「だから、カラダで払うって言ってるじゃないですか!」
「いや、イカマリで払ってください!イカマリ以外は受け取り拒否!」
あーたらこーたら。やっぱりエンドレスモードで言い争うO女史とエンヤーさん。もう付き合いきれないのでコーヒーを淹れに給湯室に行くことにする。
「2切れプラスエンペラ!合計3切れ!このラインは譲れないな」
「エンペラとるなら、全部で2切れまでですから!残念!!」
5分後、給湯室から帰ってくると、タヌキ課長のイカマリをどう山分けするかで、飽きもせずエンドレスで言い争うO女史とエンヤーさんの姿があったのであった。
まったく、飽きない人たちではある。
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